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 いつかの未来


 ――カスパルは大丈夫だろうか。
 旅先の宿で就寝していた僕は、窓の外から聞こえてくる雨音に目を覚ました。
 大雨の日はだいたい雷も鳴っているから、雷が苦手なカスパルは雨が降るだけでも怯えてしまって、小さいころはよく僕の寝台に潜り込んでいた。
 そうしたところで雷が止むわけではないけれど、僕と一緒にいることでカスパルが安心できるのだと思うと嬉しかったんだ。
 隣の寝台で寝ていたはずのカスパルを見ると、僕よりも先に起きていたらしく、上体を起こしたまま敷き布の上に座っていた。
 やはり雨が気になって眠れないのだろうか。
 そう思ってカスパルの顔を覗き込んだ時、彼が泣いていることに気がついた。号泣するでも啜り泣くでもなく、ただ瞳のふちから涙が伝い落ちている。
「……どうしたの、カスパル? なにかあった?」
 僕はカスパルが使っている寝台まで移動して横に腰をかけた。雷が怖いとぐずるカスパルをあやしたときのように、頭を撫でたり額に口付けたりして彼の緊張をほぐしていく。
「いや、ちょっと嫌な夢を見ただけだ」
 カスパルは手の甲で涙を拭ったあと、ばつが悪そうに微笑んだ。
「……戦争の夢?」
 そう問いかけるとカスパルは小さく頷いた。
 嫌な夢――と聞いて、僕が真っ先に思いついたのが数年前に勃発したフォドラ統一戦争だった。
 当時、僕とカスパルは帝国を離れ、同盟軍の将として戦争に参加していた。たくさんの学友や同胞を殺したし、多くの仲間を失った。カスパルの父親も、全将兵の身の安全と引き換えに自ら首を差し出して死亡したと聞いている。
 その戦争が心の傷となり、戦争が終わったいまも心身に不調をきたしている人は多かった。不眠や食欲不振だけならまだいいほうで、中には幻覚や幻聴といった症状が現れている人もいる。
 カスパルはそういった心の不調とは無縁に見えるが、彼だって戦争で深い傷を負ったのだろう。
「……リンハルトがオレを守るために死ぬ夢だった」
 気分が落ち着いたカスパルはぽつぽつと夢の話をしてくれた。
 夢の中のカスパルは撤退する敵軍を追撃するために突出し、その結果として重傷を負ったらしい。僕はそのカスパルを転移魔法で後方に退避させたあと、敵を誘い込むために守備していた砦を開門し、囮となって死んだのだという。
「戦争中はさ、誰が死んでも……オレ自身が死んでも、仲間が殺されても仕方ないことだと思ってた。戦場に出てるってことは、そういう覚悟を持ってるってことだろ? だからオレも敵に情けをかける気はなかった」
 戦争なのだから仕方がない――ベルグリーズ家の武人として育てられたカスパルは、士官学校に在籍していた頃からすでにその覚悟ができていた。熱くて人情味のある性格なのに、そういう部分は妙に冷めているのがカスパルという人物だった。
「でも、敵を深追いして怪我したオレを逃がすためにリンハルトが死んじまったと思ったら、なんか……すごくつらかった。リンハルトはオレと違って冷静だから、オレが死んでもうまく立ち回ってくれるだろうと思ってたし、死ぬまで戦うなんてお前らしくないなって……はは、夢の話なのにな」
 お前らしくない――そう言われて、僕はふとメリセウス要塞での攻防を思い出した。
 子供のころ、カスパルと一緒にかくれんぼをして遊んでいたあの要塞は、フォドラ統一戦争のおりに戦場となった。懐かしい町並みは魔法や魔獣の攻撃で破壊され、最後には光の杭によって要塞も帝国軍の人々も粉々になってしまった。
 メリセウス要塞の守備には、ベルグリーズ家の誰かがつくことになっている。
 あのまま僕とカスパルが帝国軍の将として戦っていたのだとしたら、当時の当主であるレオポルドが遠征に赴いていた以上、メリセウス要塞の守備についていたのはカスパルだったのかもしれない。
 もし、僕がカスパルと一緒に出撃していたら、メリセウス要塞を守るために戦っていたら――僕は光の杭からカスパルを逃がすために、その夢のような行動を取ったのだろうか?
 ……取ったのかもしれない。カスパルの「戦いたい」という意思を無視してでも、カスパルを死なせたくないという自我を通して、彼を逃がしていたのかもしれない。
 僕らしくない、とカスパルは言うけれど。そう思うのだとしたら、カスパルは僕がどれほど君を想っているかきっと理解していない。
 たぶん、僕は君が思っているよりもずっと我儘で身勝手だ。
 君が戦場で死ぬことを望んでいたとしても、僕は君に生きていてほしいと願うし、君が僕の死によって心を痛めるのだとしても、僕の望みのために君を生かすだろう。僕の魔法は、君を守るためにあるのだから。
 帝国を裏切った僕たちは、家族と敵対することになり多くの友達を殺した。けれど、その結果としていまカスパルが生きているのだから、それでよかったんだ。そう思う僕はきっとひどいやつなのだろう。
「カスパル……僕は君の傍にいるよ。二人で生きるって約束しただろう?」
「ああ、そうだな」
 カスパルの体をそっと抱き寄せると、彼も僕の背中に手を回して甘えるように頬を擦り付けてきた。
 その頬に口付けを落として、かさついた彼の唇を軽く舌先で舐めてみる。カスパルはくすぐったそうな声を上げたあと、僕を見上げて苦笑いを浮かべた。
 そのまま深く唇を重ねて、お互いの吐息を奪い合うような長い口付けを交わす。そのうちカスパルの手が僕の後頭部へと回り込み、もっと欲しいとねだるように強く引き寄せられた。
 僕はカスパルの体を強く抱きしめながら、何度も角度を変えて彼を求めた。窓の外ではいまだに雨が激しく降りしきっているようだったけど、もう気にはならなかった。
「ん、はぁ……リンハルト、来てくれ」
 熱に浮かされた声でカスパルにそう囁かれて、正直少し驚いた。カスパルが自分から求めてくることはあまりないし、あったとしても生理現象の発露でしかない場合がほとんどだったから。
 珍しいね、君の方からなんて――などという意地悪が口をつきそうになってしまったけれど、さすがに今の状況でそれはないなと判断して口を閉ざす。代わりに、もう一度口付けをしてそれに応えた。
 カスパルの首筋に吸い付いて痕を残しながら、衣服の中に手を入れて胸元を探る。指先に引っかかる突起を摘み上げて刺激すれば、カスパルは鼻にかかった吐息を漏らして身を捩らせた。
「ふっ……ん……」
 逞しく鍛え上げられた胸筋を揉むように愛撫しながら、もう一方の手で下腹部に触れる。そこはすでに軽く立ち上がりかけていて、カスパルは恥ずかしげに身を震わせた。
 下衣をひっぱって脱がそうとすると、それに気づいたカスパルが腰を上げてくれる。その行為に甘えて、一気に下着ごと取り去った。
 カスパルだけ裸にさせるのも申し訳ないので、僕も服を脱いで寝台の下に放り投げる。皺になってしまうなとは思ったけど、行為の最中に服を畳むほど空気が読めないわけでもなかった。
「あっ……あ、リンハルト……いい……あっ」
 カスパルの性器を掌で包み込んで扱きつつ、乳首を口に含んで吸い上げる。性器の先端を親指で押し潰したり、竿を優しく握ったりしてやると、カスパルは僕の頭を掻き抱いて熱い声を上げた。
 カスパルが全力を出せば僕くらい簡単に絞め殺せるだろうけど、行為の最中にその手の危険を感じたことはない。性行為に不慣れなカスパルではあるが、無意識のうちに力加減をしてくれているのだろう。
 しばらくそうやって愛撫を続けているうちにカスパルは限界を迎えたらしく、ひときわ大きな声を上げると同時に僕の手の中に白濁を吐き出した。
 荒い呼吸を繰り返すカスパルの背中に手を回し、うつ伏せにするために力を込める。すると、にわかにカスパルが抵抗したので僕は手を止めた。
 嫌なのだろうか。それを確認するためにカスパルの顔を覗き込めば、カスパルは否定するように首を振った。それから僕を見上げてぽつりと口を開く。
「……今日は正面からがいい」
 意外な提案ではあったが、拒否されているわけでないことに僕は安堵した。カスパルは行為のときに顔を見られるのが恥ずかしいらしく、いつもは正面からの体位を嫌がっていたから。
 僕はカスパルの要望通りに体勢を整えて、ふたたび彼に覆いかぶさった。香油を手に取ってカスパルの後孔へと塗りつけると、カスパルは一瞬びくりと震える。だけど、すぐに体の力を抜いて受け入れてくれた。
 穴の周囲の皺を指の腹で伸ばすように按摩し、そこが柔らかくなったところで中指を差し入れる。
 もう何度も体を重ねているものの、カスパルのそこは未だに狭くて、なかなか思うようには広がってくれない。それでも根気よく解しているうちに、次第に二本目の指も入るようになった。
 カスパルは苦しそうな表情を浮かべていたけれど、何度か深く息を吐いたあと自ら足を広げて挿入しやすい体勢を取ってくれた。
 カスパルが僕を受け入れようとしてくれている。その事実が嬉しかった。だから、僕もできるだけ丁寧に、時間をかけて慣らしていった。
「……もう、大丈夫だ」
 三本目の指が容易に動かせるようになったあたりで、カスパルが行為の先を催促してきた。僕はカスパルの額に軽く口付けて、それから彼の両足を抱え上げる。
「挿れるよ」
「ああ……来てくれ」
 カスパルの言葉を受けて、僕はゆっくりとカスパルの中に入っていった。
 カスパルの体内は異物を押し出そうとするかのように腸壁を収縮させる。その動きに逆らって奥まで進むと、カスパルは眉間に皺を寄せて苦悶の表情を浮かべた。
「……痛い?」
 カスパルは黙って首を横に振る。
 まだ士官学校に通う学生だったころ、僕たちは学生寮で初めて体を重ねた。
 僕のものを受け入れるにはカスパルの体は小さすぎて、激痛を訴えて泣いてしまったのを覚えている。僕も髪をひっぱられたり皮膚に爪を立てられたりして大変だったけど、それでも彼はやめろとは言わなかった。
 何度も体を重ねるうちに少しずつ行為には慣れていったのだけど、受け入れる側であるカスパルの負担が大きいことに変わりはない。
 なんだか可哀想になって「今日はカスパルがする?」と提案したこともあった。するとカスパルは「リンハルトは痛いの嫌だろ? オレはリンハルトが嫌がることはしたくない」と返答して、かえって気を使わせてしまったのを覚えている。
 カスパルの呼吸が落ち着くのを待ってから僕は腰を動かし始めた。最初は緩やかに、中を広げるようにやんわりと動かしてから、徐々に速度を上げて抽挿を激しくしていく。
「んっ……んっ……あ……リンハルト……もっと……」
 カスパルの口から漏れ出る吐息は次第に熱を帯びていき、やがて切なげな声を上げるようになっていった。
 敷き布を掴んでいたカスパルの手を取り、絡めるように握って敷き布に縫い付ける。白くて骨ばっている僕の手とは違う、厚い皮膚と胼胝に覆われた無骨な武人の手だ。
 一騎当千の猛者であり、素手で人を殺すことも容易くできる彼が、こうして僕を受け入れてくれている。繋いだ手からその事実をまざまざと感じられて、なおのことカスパルが愛おしくなった。
「カスパル……好きだよ。君が欲しい。全部、欲しいんだ」
「んっ……はぁっ……ああぁっ!」
 カスパルの望むままに最奥を突き上げ続けると、次第にカスパルは絶頂の兆しを見せ始める。
 カスパルの性器が硬度を増していく様子を確認しながら、僕はカスパルの一番感じる部分を執拗に攻め立てた。
「ああっ! あっあっあっ……だめだ、そこっ……ああぁっ!」
 一際高い声でカスパルが鳴くと同時に、彼の性器から勢いよく白濁が飛び散る。同時に体内をきつく締め付けられて、僕のほうもカスパルの中で果ててしまった。

 しばらくのあいだ二人で抱き合って呼吸を整えたあと、僕はカスパルの中から萎えた性器を引き抜いた。カスパルは小さく体を震わせて、「んぅ……」と甘い吐息を漏らす。
 呼吸が落ち着いたカスパルは、寝台の上に寝転んで天井を見上げた。カスパルの隣に身を横たえてその顔を覗き込むと、カスパルは僕を見つめ返してふっと笑みを浮かべる。
「……お前もそんな顔するんだな」
 え、と言葉に詰まる僕を見て、カスパルはいつものように豪快に笑った。
「すごく不安そうな顔してたぞ? オレの夢の話を聞いてお前まで臆病風に吹かれちまったか?」
 カスパルは子供を宥めるように僕の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「……そうだね。君は目を離すとどこかに行ってしまいそうだから」
 カスパルの頬に手を伸ばし、汗ばんでいる肌を撫でる。
「君が旅に出ると言い出したときも不安だったんだ。君はもう僕の元には帰ってこないんじゃないかって。だから、君についていくと決めた。なにせ君はガルグ=マクの戦いのあと五年も行方をくらましていたからね」
「それは……悪かったと思ってる。でも、あの時はオレもいろいろあったんだよ。今はもう勝手にどこかには行かないし、ずっとお前と一緒にいるつもりだぜ?」
 カスパルはくすぐったそうに目を細めてから僕の手に自分の手を重ねてきた。
「うん。わかってる。君の気持ちは疑ったりしていないよ」
 カスパルは「ならいいんだけどよ」と言って苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、なんでまたそんな泣きそうな顔してたんだよ?」
「……ごめん。ただの感傷だよ。カスパルは僕を置いてどこにも行ったりしないって、頭では理解しているはずなのに。どうしても不安になってしまったんだ。カスパルが見た夢の話を聞いたせいかな」
 言いながら情けなくなってきて、僕はカスパルの肩口に額を押し付ける。カスパルはばつが悪そうに頬を掻いたあと、僕の背中に手を回して抱き寄せてきた。
 カスパルは弁舌が回らないほうだから、言葉で気持ちを伝えるのもへたくそだ。だけど、こうして行動で示してくれる彼の優しさに、僕はとても救われている。
「……カスパル。ありがとう」
 耳元に口を寄せて囁くと、カスパルは照れくさそうにはにかんで「おう」と応えた。
 僕はカスパルの体を強く抱きしめて、その体温を感じながら目を閉じる。
 きっと、いま僕たちがこうしていられるのは奇跡のようなもので、道を違えたいつかの未来では、カスパルが見た夢のような結末を迎える僕たちもいたのだろう。
 だからこそ、この幸せな時間が永遠に続くようにと願わずにはいられなかった。願い叶わず散ったいつかの僕たちのためにも、僕はこの幸せを享受しなければならない。
 それが、いつかの僕たちの手向けになることを願って。

 焼け木杭に何とかは言うけれど


 カスパルの引き締まった胴を掴んで欲望のままに腰を打ち付けると、開きっぱなしの口から断続的に声が漏れた。色気や艶やかさとは無縁の吠えるような嬌声が、リンハルトの鼓膜を震わせて脳を蕩けさせていく。
 ガルグ=マクの戦いから五年の月日が経過していた。
 そのあいだ、皇帝や一族に刃を向けることになったカスパルは、帝国を離れて王国領と同盟領を放浪していたらしい。そのカスパルが同盟軍に合流し、リンハルトもまた家を離れて同盟軍へと身を投じたのが数日前の話だ。
 久しぶりに再開した幼なじみの二人は互いに近況報告や現状への不安などを吐露し、流れのまま寝台へともつれ込んだ。恋人同士でもある二人は五年の月日を埋めるようにお互いの熱を交換し合い、もう何時間も交わり続けていた。
「あっ、あっ、リン、ハルトっ……!」
 カスパルの背筋が反り返り、内壁が強く収縮する。搾り取るような締め付けに逆らわず、リンハルトも何度目かの射精を迎えた。
 絶頂感に震えるカスパルの背中に覆い被さって抱きしめると、汗で湿った肌同士が密着して互いの熱を伝え合う。
 リンハルトの腕にすっぽりと収まってしまうほど小さかったカスパルの体は、五年間ですっかりと逞しく成長していた。
 筋肉に覆われた肩口に顔を埋めれば、微かな刺激臭がリンハルトの鼻腔を満たす。子供特有の牛乳のような体臭もすっかりと消え、代わりに雄臭い匂いがした。
 それはきっと自分も同じなのだろうと思うと妙におかしくなって、リンハルトはくつくつと笑いながらカスパルの首元に軽く歯を立てる。
「んぅ……ふぁ……」
 首から耳の裏まで舐め上げ、耳たぶを食み、舌を差し入れてわざと音を立てて愛撫すれば、カスパルは面白いように反応を示す。
 カスパルの性器からはとろとろと精液が溢れ出ていて、敷き布には小さな水溜りができていた。そこにそっと手を這わせると、未だ硬度を保ったままぴくぴくと脈打っている。
「まだ足りない?」
 リンハルトが意地悪く囁けば、カスパルは小さく頷いた。
「もっと、くれよ」
 掠れた声でそうつぶやき、カスパルは自ら誘うように腰を振る。そんな仕草一つにも煽られて、リンハルトはふたたびカスパルの中を突き上げた。
「あッ! はっ……ああッ!」
 何度も吐き出した精液のおかげで抽挿は滑らかだった。粘ついた音が結合部から響き、それに合わせてカスパルの口からは意味のない言葉だけが溢れ出る。
「ひぐっ……うあッ! ああっ……!」
 リンハルトが突き上げるたびに、カスパルの先端から白濁が押し出されるようにして零れ落ちる。それでもなお萎えることのない陰茎を握って上下に擦ると、内壁が痙攣するように収縮を繰り返した。
「ひっ!? だめだ、そこっ……!」
「どうして? こうされるの好きでしょ?」
 親指で先端をぐりぐりと弄るとカスパルの体がびくんと跳ね上がる。同時に中がぎゅっと締まり、危うく持っていかれそうになったところを何とか堪えた。
「ほら、こうするとまたすぐイっちゃいそうだね」
「ああぁっ! あっ、あっ、イク、イッちまう……!」
「いいよ、好きなだけ気持ちよくなりなよ」
 耳元で甘く囁いて、そのままカスパルの唇を塞いだ。口内を犯しながら律動を再開させると、くぐもった喘ぎ声が喉の奥で反響する。
「んむっ……ンーッ!」
 舌先を強く吸ってやると同時に、カスパルは大きく体を震わせて達した。それと同時に後孔が激しく収縮し、搾り取られるようにしてリンハルトもまたカスパルの中に精を放つ。
 長い射精を終えてようやくカスパルの中から性器を引き抜くと、栓を失ったそこからどろりと大量の精液が流れ出た。
「……すごい量だよね。僕たちどれだけやってたんだろう」
 リンハルトは自分の出した精液の量に笑ってしまう。
 リンハルトもカスパルも元来は性欲が強いほうではない。だからこそ久しぶりの性行為で歯止めが利かなかったのだろう。
 カスパルは寝台に寝そべったまま荒い息をついている。呼吸に合わせてはくはくと開閉する後孔から白い液体が垂れ流しになっており、その淫靡さに思わずリンハルトはごくりと生唾を飲み込んだ。
「ねえ、カスパル。もう一回しようか」
 カスパルの体を抱き締めながら、張りのある胸筋を掌で掬うようにして揉み込む。ぷくっと膨らんだ先端を指で摘んで転がすと、カスパルの口から甘い吐息が漏れた。
「んっ……! 胸、やだって」
「嘘、好きでしょ? 硬くなってるよ」
 片方の突起をくりくりと弄りながら、もう片方の手で尻の割れ目をなぞる。散々酷使されたそこは未だに柔らかく、難なく二本の指を受け入れた。
「ここも僕のこと離してくれなくてさ。カスパルの体は素直だよね」
「あっ、うるせぇ……!」
 精液を掻き出すように内壁を引っ掻けば、カスパルの体がびくんと震える。そのまましばらく奥まで探るように出し入れを繰り返していると、やがてカスパルの腰が揺れ始めた。
「どうしたの? 何か言いたいことがあるなら言ってごらんよ」
「……ッ!」
 意地の悪い問いかけにカスパルの顔が羞恥に染まる。
「言わないとわからないけどなぁ……」
「ぐっ……」
 カスパルは恨めしげにリンハルトを見上げていたが、すぐに諦めたように視線を逸らした。そして、消え入りそうな声で呟く。
「…………ぃ」
「聞こえない」
「もっと……」
「うん?」
「だからっ……もっと欲しいんだよ!」
 半ば自棄になって叫ぶ姿が可愛らしくて、リンハルトはふっと微笑んでカスパルの頭を優しく撫でた。
「可愛いね、カスパルは」
「うるせっ……んんっ! あ、はぁっ……!」
 求められるままカスパルの中に自身を挿入すると、今度は最初から激しく腰を打ち付けた。結合部からは収まりきらなかった精液が溢れ出て、二人の下肢を濡らしていく。
「ああッ! 激しっ……んああッ!」
「凄いね、突くたびに溢れてくるよ」
「言うなッ……! あッ、ああッ!」
 突き上げるたびにカスパルの性器からぴゅっぴゅっと少量ずつ精液が飛び散る。壊れてしまったかのようにずっと達し続けていて、もはや苦痛に近い快楽に襲われていることは明らかだった。
 それでも、カスパルは健気に自分を受け入れてくれる。そんな姿を見るとますます愛おしさが募り、リンハルトの動きはより一層激しいものへと変わっていった。
「カスパル、好きだよ」
「オレもっ、あっ、好きっ、だっ……」
 うわ言のように繰り返される言葉が嬉しくて、リンハルトはさらに抽挿を早めていく。
 馬鹿みたいに抱き合って、貪るようなキスをして、汗まみれになりながら交わって。最後はもうお互いにほとんど記憶がなかった。

 翌朝、目を覚ますとカスパルは隣で穏やかな寝息を立てていた。
 早寝早起き早食いが信条のカスパルが寝過ごすのは珍しい。昨晩は水浴びもしないまま寝てしまったし、やりすぎたお詫びに湯船まで運んであげてもいいかもしれない。
 そう考えてカスパルを抱えあげようとしたものの、成長した体はリンハルトの記憶より遥かに重量があり、軽々と抱えあげられるものではなさそうだった。
「ん? んー……リンハルト?」
 体に触れられる感触に目を覚ましたカスパルが、寝ぼけ眼を擦りながらリンハルトを見る。
「ああ、起こしちゃったか、ごめん。君を浴室に運ぼうかと思ったんだけど、無理そうだからやっぱり自分で歩いてくれない?」
「……お前なあ」
 カスパルは呆れながらも寝台から立ち上がり、酷使した体を引き摺って浴室へと向かう。さすがに申し訳なくなったリンハルトもカスパルの後を追い、二人で朝風呂を堪能することにした。

 浴槽に水を張って魔法で温めるという入浴法を思いついたのはリンハルトで、それをいたく気に入ったのはカスパルだった。
 普段は烏の行水のような入浴しかしないカスパルも、こうすると気持ちいいのかゆっくりと時間をかけて体を休ませる。二人で湯に浸かりながら取りとめもない話題をするこの時間が、リンハルトは嫌いではなかった。
「さすがにもう狭いなこれ」
 体を流し合って二人で湯船に浸かろうとしたところで、浴槽の狭さにカスパルが笑い声を上げる。
 以前はカスパルが小さかったので二人で浸かっても窮屈だと感じることはなかったのだが、そのカスパルもいまはすっかりと大人の体になっていた。
 肩まで浸かると押し出された湯が浴槽から溢れ出して浴室の床を濡らす。リンハルトがそれを見て「もったいない」とぼやいていると、カスパルが不意に身を乗り出してきた。
「ん……何?」
「いや、別にどうもしないけどよ」
 カスパルはリンハルトの首筋に顔を埋め、ちゅっと音を立てて吸い付いてくる。そのまま肌を擦り合わせながら何度も吸い付き、胸の突起をたどたどしい手つきで愛撫してきた。
「……もしかして、やりたくなったの?」
 リンハルトはカスパルの行為の意図を察してそう訊ねる。無言で頷くカスパルの耳は僅かに赤くなっていた。それに気が付いたリンハルトは思わず頬を緩め、そのままカスパルを抱き締める。
「じゃあしようよ。僕もしたいと思ってたところなんだよね」
 それは半分嘘だった。正確には、いましたくなった。カスパルの拙い誘い方がいじらしく、その拙さを愛おしく感じたせいだった。
 リンハルトは乗り上げてきたカスパルの尻に手を回し、そのまま割れ目に指を這わせる。後孔はまだ柔らかく解れたままで、指を差し入れるとくぷりと飲み込んだ。
「昨晩の、まだ残ってるね」
 昨晩リンハルトが出した精液を掻き出すようにぐるっと中を探ると、カスパルの体がびくんと跳ね上がった。そこを指先で軽く掻き混ぜるだけで、ぐじゅっという卑猥な音が浴室に響き渡る。
「んんっ……! あ、ああッ……!」
 カスパルはリンハルトにしがみつきながら甘い吐息を漏らす。カスパルが動くと同時に湯船の水面が波を打ち、浴槽の縁から流れ落ちた湯が床に水溜りを作った。
「このまま入れても大丈夫かな? カスパルのここ、柔らかいし……」
「ん……たぶん……」
 リンハルトは自身の性器を扱いて勃起させてから、カスパルの腰を持ち上げてゆっくりとそこに下ろしていく。既に蕩けたそこは難なくリンハルトを飲み込んでいき、根元までぴったりと収まった。
「動いていい?」
「んっ、早くしろっ、て……」
 カスパルは急かすように自ら腰を振り始める。性的なことに関する興味が希薄なカスパルがここまで積極的に求めてくることは珍しくて、それだけ求められているのだという事実が嬉しかった。
「あッ、はっ、あんっ、ああッ!」
 リンハルトはカスパルの動きに合わせて下から突き上げる。最初はぎこちなかった動きはすぐに性急なものへと変わり、カスパルはより深い快楽を求めて激しく上下運動を繰り返した。
「すごっ、きもちいっ、もっとぉ……」
 快楽に溺れていくカスパルの姿は淫らで美しい。リンハルトはその姿をじっと見つめながら、カスパルの中に欲望を叩きつけた。
 肉同士がぶつかり合う乾いた音と結合部からの水音が混ざり合い、浴室内に反響する。激しい抽挿によって中に出した精液が後孔の縁で泡を立て、律動のたびに結合部から溢れ出す。
「ああっ、またイくぅ……あああっ!」
 やがて絶頂が近いことを察してカスパルの性器に触れると、そこはもう先走りなのか射精しているのかわからないほどにどろどろになっていた。
「一緒にイこうか」
「んっ、ああッ……あああッ!」
 淫らに揺れる腰を掴んで最奥まで貫けば、カスパルは体を反らして勢いよく白濁を吐き出した。熱く蕩けた内壁が性器に絡みつく快感に耐えきれず、リンハルトもカスパルの最深部に熱い飛沫を注ぎ込む。
 お互いの荒い呼吸だけが響く浴室内で、カスパルはリンハルトにもたれかかったまましばらく動けずにいた。リンハルトはカスパルを抱き締めながら唇を合わせ、舌先を絡めて唾液を交換し合う。
「ふぁ……リンハルト、もう一回」
「ええ……? 仕方ないなあ」
 カスパルがあまりにも物欲しげに見つめてくるものだから、リンハルトはもう一度カスパルと体を重ねた。どうせ今日はなにも予定が入っていない。だからこそ昨晩は思い切り求め合ったのだ。
 位置を変えて、体勢を変えて、何度も交わって。汗まみれになった体を洗い流して湯船に浸かり、ようやく一息ついた頃には既に昼過ぎになっていた。

 幼なじみが変な知識を身につけてきた


「なあなあリンハルト! パイズリって知ってるか?」
 ――いきなり何を訊かれているんだ僕は?
 きらきらした瞳で見上げてくるカスパルをリンハルトは呆れ顔で見下ろした。
 パイズリというのはつまりあれだろう。乳房で男性器を挟んで刺激するあの行為のことだ。結合こそ伴わないものの性行為の一種であり、決していまのカスパルのように無邪気に口にするような言葉ではない。
 カスパルのことだ。その言葉が大声で発するべき言葉ではないということを知らずに口にしている可能性もある。
 となれば、この期待に満ちた目は「リンハルトなら答えを知っているだろう」という理由からかもしれない。そういうとき、カスパルは昔からこんな瞳を向けてくるのだ。
 リンハルトはそう判断し、カスパルに注意を促すのは後回しにした。幸いなことに、ここはリンハルトの自室だ。周囲に白い目で見られるという事態は回避できている。
「知ってるけど……君の口からそんな言葉が出てくるのは意外だったな」
 リンハルトはひとまず「知っているか」という問いにだけ答えた。
 なにがどうと具体的に説明するのは、恥ずかしいというよりめんどうだ。カスパルが説明を求めているのかどうか判断がつくまでは、わざわざこちらから口にすることもないだろう。
「それがよ、バルタザールが……」
「ああうん、経緯はだいたいわかったよ」
 リンハルトはカスパルがすべてを言い終える前に言葉を遮った。
 話の続きを聞かなくとも想像はつく。おおかた、バルタザールとの手合いの後で食事にでも行くことになり、そこで下世話な会話に花が咲いた――といったところだろう。
 カスパルはもともとその手の話題を好む性格ではないが、バルタザールもカスパルの性格はよく知っている。きっと、カスパルがうまく話題に食いつくように巧みに会話を盛り上げたに違いない。
 そしてまんまとその手管に乗せられて、カスパルはリンハルトに先程のような問いかけをしたというわけだ。
「バルタザールが『恋人にしてやったら喜ぶぞ』って言うんだけどよ、肝心のやり方を教えてくれねえんだよな。それは相手に訊けって言われて……」
「え、待って。カスパルはバルタザールに僕たちが付き合ってることを話したの?」
 聞き捨てならない発言が耳に入り、リンハルトはふたたびカスパルの言葉を遮る。
 聞き間違えでなければ、バルタザールは『恋人にしてもらえ』ではなく『恋人にしてやったら』とカスパルに言ったという。それはつまり、カスパルの恋人が男性であることをバルタザールが把握しているということだ。
 別に自分たちの関係を隠しているわけではないが、色恋沙汰なんてものは得てして好奇の視線を集めてしまう。穏やかに日々を過ごしたいリンハルトにとって、それを公にしたところで利益はないと言えた。
「そりゃ話すだろ? あいつはオレたちの仲間なんだからさ」
 カスパルは不思議そうな顔で首を傾げる。
「……まあ、確かにそうだね」
 悪意の欠片も見えないカスパルを咎める気も起きず、リンハルトは額に手を当てながら嘆息した。
 幸いなことに、相手は豪放磊落なバルタザールだ。自分たちの関係を知ったところで冷やかすような真似はしないだろう。これがドロテアやベルナデッタであれば少々めんどうな所だった。
「だからよ、パイズリってどういう意味なのか教えてくれ!」
 按摩か何かと勘違いでもしていそうなカスパルに、リンハルトはふたたび嘆息する。
 以前も似たようなことがあった。『白銀の乙女』の異名を持つアリアンロッドに対して、カスパルは「なぜ要塞なのに乙女なのか」という疑問を抱き、あちこちに聞いて回ったのである。
 このままではカスパルはずっと同じ質問を繰り返すだろう。仕方なく、リンハルトはカスパルに説明を始めた。
「あのね、カスパル。パイズリってのは胸の間に男性器を挟み込んで、皮膚で摩擦して射精に導く行為のことだよ。基本的に女性の乳房をもちいて行うものだけど、君は胸筋が発達しているからできるだろうとバルタザールは判断したんじゃないかな」
 懇切丁寧に説明してやると、カスパルは頷きながら話に耳を傾ける。
「なるほど、そういうことか。なら、オレにもできそうだな」
「ええ……? やる気出ちゃったの?」
 真相を知れば興味を失うだろうとリンハルトは踏んでいたのだが、カスパルはなおのこと興味を持ってしまったようだった。
「試してみようぜ。ほら、ちんこ出せよ」
「いや、僕そういう特殊嗜好の行為はちょっと……」
 乗り気なカスパルに対してリンハルトは及び腰になる。
 別に、リンハルトもパイズリに興味がないわけではない。カスパルとの性交が嫌というわけでもない。ただ、カスパルに男の急所とも言える性器を預けるという行為が危険すぎる予感しかしないのだ。
「いいから、早くしろよ」
「しょうがないなあ……」
 カスパルは有無を言わさずといった様子で上半身裸になると、寝台に座っていたリンハルトの前に膝立ちになった。
 ここで粘るのもめんどうだ。一度付き合ってやればカスパルも満足するだろう。ある種の諦念を抱いたリンハルトは、しぶしぶ股を開いてカスパルの体が割り込んでくるのを受け入れる。
 カスパルはリンハルトの下衣の前を寛げ、下着の中からまだ柔らかいままの陰茎を取り出した。それを片手で掴んで自らの胸の間に導き、両の胸で挟み込もうとする。
 しかし、勃起していない状態ではうまく挟むことができないらしい。柔らかい性器が胸の間から逃げるように滑るのに四苦八苦したあと、カスパルは眉間に皺を寄せてリンハルトを見上げた。
「これ、どうやったら挟めるんだ?」
 困惑した様子のカスパルにリンハルトは苦笑する。先程までの威勢はどこに行ったのか。
「まずは手や口を使って勃起させる必要があるんじゃないのかな。唾液で濡らしておけばその後の行為も円滑になるし」
「ふうん。けっこうめんどうなんだな」
 カスパルは納得したように呟くと、リンハルトのものを掌で包んで軽く上下に動かし始めた。
 カスパルの掌は胼胝だらけで硬いうえに、技巧的に上手いとはとても言えない。それでも何度かリンハルトとこういうことをしているという経験からなのか、責め立てる手の動きは意外と的確だった。
「おっ、大きくなってきたじゃねえか! よしよし、その調子だ!」
「もうちょっと色気ある言い方できないの、君」
 呆れながらも、リンハルトのものはすっかり膨張して天を仰いでいる。色気があろうとなかろうと、性器を扱かれているのだから反応してしまうのは仕方がない。
「えっと……唾液で濡らす、ってことは舐めるんだよな?」
 カスパルは確認するようにリンハルトを見上げたのちに、竿を握ったまま亀頭に舌を伸ばして先端をちろちろと舐め始めた。
 焦らすように小刻みに先端を舐めたかと思うと、カスパルの頭が下に移動して今度は陰嚢に吸い付いてくる。そこから裏筋に沿ってゆっくりと這い上がり、カリ首に到達するとその周囲をなぞるように舌を這わせていく。
 やがて鈴口から先走りが滲み出てくると、カスパルはそれを掌で性器全体に塗り広げて動きを止めた。勃起だけさせられたリンハルトの陰茎が、カスパルの掌の中で射精を急かすように脈を打っている。
「こんなもんか? ここからどうすりゃいい?」
「ええと……とりあえず胸で僕のを挟んでみて、それから寄せたり上げたりしてくれる?」
 なぜ勃起によって思考能力が低下した状態でこのような説明をしなければならないのか、これはそうやって焦燥感や羞恥心を煽る類の性行為なのだろうか――カスパルにそのような思惑がある可能性は低いものの、リンハルトはそう思わずにはいられなかった。
「こ、こんな感じか……?」
 カスパルは両手で左右の胸を持ち上げ、リンハルトの性器をその間に挟み込んだ。カスパルがぎゅう、と手に力を込めると、彼の大きな胸にリンハルトの陰茎が埋もれ、先端部分のみが外気に晒される。
 上質な筋肉は力んでいない時は柔らかい――という話は本当らしい。カスパルの大胸筋は柔らかく弾力があり、それでいて程よく引き締まっていた。そこに勃起した性器を挟み込まれると、張りのある肉が押し返してくる感覚がある。
「うおっ……なんか変な感触だな」
 カスパルは不思議そうにつぶやきつつも、自分の胸を揉みしだいて肉を寄せ集め、陰茎を挟んだまま上下に動かし始めた。
 慣れない手つきではあったが、胸の間を行き来するたびに竿が皮膚に擦られ、ぞくぞくとした快感がリンハルトの中に生まれる。カスパルの唾液やリンハルトの先走りが潤滑油の役割を果たしてくれたため、摩擦による痛みはさほど感じなかった。
「どうだ? 気持ちいいか?」
 リンハルトの股の間にいるカスパルが上目遣いに訊ねる。
「うん、まあ……いいか悪いかと言ったらいいかな」
 まだ「とてもいい」とまでは言い難く、リンハルトは言葉を濁した。
 正直に言えば、カスパルの愛撫は稚拙でお世辞にも上手とは言えない。しかし、その拙さが却って興奮を煽ってくるのも事実だった。
「もっと速く動いたほうがいいか?」
 カスパルはリンハルトの返事を待たずに動きを速める。胸の間で陰茎が擦られるたびにくちゅ、ぬちゃ、と粘着質な音が響き、ときおり胸の谷間から飛び出した亀頭の先端がカスパルの顔にぶつかった。
「うわ……お前のここ、すごく熱いな」
 カスパルは勃起して赤黒く変色したリンハルトの亀頭に頬を寄せる。そして胸を揺すりながら先端をぺろりと舐め上げ、リンハルトを見上げて悪戯っぽく笑った。
「ん、また大きくなった……オレの胸、そんなにいいのか?」
「……あのねえ、君、そういうのどこで覚えてくるの?」
 カスパルの淫猥な仕種を目の当たりにしたリンハルトは額に手を当てて嘆息する。
 どこで覚えたというわけではなく無意識なのだろう。昔からカスパルはこうだ。無意識に相手をその気にさせるような言動をしては、無自覚のうちに相手に好意を寄せられていた。
「どこで覚えたって、さっきお前が教えてくれたんだろ」
「いや、それのことじゃなくて……ああ、なんかもういいや」
 説明を諦めたリンハルトに対して、カスパルは解せないといった表情を浮かべている。それでも気を取り直して口を大きく開けると、リンハルトの亀頭をぱくりと咥え込んだ。
「ん、ふぅ……んむ、んっ……」
 カスパルは舌先で尿道口を弄びながら胸で竿を刺激し続ける。胸筋の弾力性を利用して根元から搾り取るように扱かれるたび、背中からぞくぞくと快楽が押し寄せてきてリンハルトの射精感が高まっていく。
「んぐ、う、ぐっ……! んっ、んむっ!」
 絶頂が近づき、リンハルトはカスパルの後頭部に手を添えてゆるゆると腰を動かし始めた。するとカスパルも察してくれたようで、胸を押し潰すように圧迫しながら尿道を強く吸い上げてくる。
「ごめん、そろそろ出るかも……」
「ん、いいぜ、出せよ」
 カスパルは顔を上げてリンハルトの亀頭を口から離すと、胸を上下させて竿全体を激しく扱いてきた。
「うあっ、ちょ、待って、激しすぎ……!」
 強烈な刺激に耐えきれず、リンハルトはカスパルの胸の中に大量の精液を放出する。カスパルの谷間に陰茎が埋まった状態での射精だったために、精液は飛び散ることなくカスパルの胸に受け止められた。
「うわっ……すごい量だな。それに濃い……お前、ちゃんと抜いてるのか?」
 精液をすべて受け止めたカスパルは、リンハルトが落ち着くのを待ったあと胸から手を離して中を見せてきた。
 どろりとした白濁がカスパルの大きな胸に溢れかえっている。その光景はあまりに背徳的で、同時にひどく官能的でもあった。
「まあ、それなりにはね。でも、最近は面倒になってきてたし……」
 リンハルトはぬるついた性器を拭って衣服を整えつつ、何気なくカスパルの下半身に目をやった。
 カスパルのものはすっかり勃ち上がり、衣服を窮屈そうに押し上げている。そういえば、リンハルトが一方的に愛撫を受けていただけで、カスパルは一度も達していない。
「あー……カスパル、したくなった?」
 自分だけ出しておきながらそれを無視するのも忍びなく、リンハルトはカスパルの髪に触れながら訊ねた。汗ばんだ額に前髪が張り付いており、それを後頭部に流すようにして梳いてやる。
「そう、だな……オレもしたくなったかも」
「僕が先にやりたがってたみたいな言い方やめてくれない? ……まあ、いいよ。僕がしてあげる」
 リンハルトはカスパルに寝台に上がるように促すと、革帯を緩めて下着ごと下衣を脱がせた。布の中に押し込められていたカスパルの性器が解放され、勢いよく跳ね上がって腹を打つ。
「うわ、元気すぎでしょ君の」
 カスパルの性器は完全に上を向いていており、鈴口からは透明な液体が滲み出ている。リンハルトはそれを握って上下に扱き、親指でぐりぐりと先端を刺激してやった。
「ん、くっ……ぁ、あ……ッ」
 雁の裏側を指先でなぞるようにしてやると、カスパルはぶるっと身体を震わせて切なげな声を上げる。かなり我慢していたのだろう。張り詰めた陰嚢がきゅうと縮み、カスパルの限界が近いことを知らせていた。
「あ、あ、それ、やばっ……っ!」
 リンハルトはカスパルの亀頭を手で包み込み、掌全体を使って小刻みに擦ってやる。とどめとばかりに先端の穴に爪を立てると、カスパルの尿道からどぷりと精液が噴き出した。
「ふう。これでお互い様だからね」
 カスパルの精液を掌で受け止めたリンハルトは、それを布で拭いながら事もなげに言う。
「お前、もうちょっと情緒とかないのかよ」
「その言葉、そのまま君に返すよ」
 呆れ気味のカスパルにリンハルトは溜め息混じりで返す。それからひとつ欠伸をし、汗で湿った敷き布に体を横たえた。
 ふとカスパルのほうを見ると、胸につきっぱなしになっていた精液を布で拭い取っている。少し乾いたそれが鍛えられた胸の上でてらてらと光っている様子は、カスパルの快活さとは不釣り合いで妙に艶かしく見えた。
「なんだよ」
「別に」
 リンハルトは目を閉じて素っ気無く答える。
 その態度が不満だったのか、カスパルはリンハルトの横に転がって背後から抱きついてきた。それに気づかないふりをして狸寝入りを決め込むリンハルトの背中に、なにやら温かい膨らみが押し付けられる。その感触の正体がカスパルの胸筋であると気づくのにそう時間はかからなかった。
「……なに、まだするの?」
「お前だって足りないんじゃねえのか?」
 カスパルはリンハルトの首筋や肩口についばむような口づけを落としていく。リンハルトを抱きしめていた腕はそのうち胸や下肢をまさぐり始め、ふたたび熱を持ち始めた性器に触れた。
「カスパル……っ、こら……!」
「お前のここ、また硬くなってきたな」
 リンハルトの耳元に唇を寄せたカスパルが意地の悪い笑みを浮かべる。
「仕方ないでしょ、生理現象なんだから」
「じゃあ、このまましようぜ」
 カスパルは硬さを取り戻しつつあるリンハルトの性器を握り込んだ。
 若いリンハルトのそれが完全に勃起するまでにさほど時間はかからなかった。カスパルは掌の中の性器が質量を増したことに笑みを浮かべ、悪戯するようにやわやわと愛撫する。
「やるのは構わないけど、僕は疲れたから君が動いてよね」
 リンハルトが観念するように仰向けに転がると、カスパルは膝立ちになって腹に乗り上げてきた。そのまま反り勃ったリンハルトの性器を跨ぎ、自身の後孔へと先端を導く。
「う……意外と難しそうだな、これ」
 意気揚々と跨ったものの、いざやるとなると怖気付いたのか、カスパルは膝立ちのまま動きを止めた。
 カスパルの後孔はまだぴっちりと閉じており、亀頭を押し当てたところで挿入はできそうにない。それでもカスパルは眉間に皺を寄せながら腰を浮かせ、性器に後孔を擦り付けてきた。
「カスパル、力づくでやっても痛いだけだよ」
「んなこと言ったって……ッ」
 カスパルは焦れた様子で後孔に亀頭を何度も押しつける。ぷっくりと膨らんだ入口がリンハルト自身の先端に擦られるたびに、カスパルの太腿がぴくりと震えた。
「あ、あっ、なんかこれ、変な感じだ……っ」
 粘膜同士が触れ合う感覚にカスパルの口から吐息が漏れる。
 先端だけを刺激されて辛いのはリンハルトのほうだった。カスパルの後孔に亀頭が擦られる刺激によってリンハルトの性器からは先走りが溢れ出し、後孔との摩擦によって粘着質な音を立てる。
「そんなんじゃいつまで経っても入らないよ」
 もどかしい刺激に耐えきれず、リンハルトはカスパルの腰を掴んでやんわりと引き寄せた。
「わかってっけど……ッ! はぁ、あ、あ……っ!」
 指摘を受けたカスパルはいったん動きを止め、それからゆっくりと腰を沈めてずぶずぶとリンハルトの性器を呑み込んでいく。しかし、半分ほど埋めたところで動きが止まり、中腰の体勢のまま苦しげに顔を歪めた。
「カスパル、大丈夫?」
「ん、なんとか……」
 カスパルはそう答えてはいるものの、脂汗を流しながら歯を食い縛っている。ろくに慣らしてもいないのだから無理もない。そもそも、そこは本来なにかを受け入れるための器官ではないのだ。
「ゆっくりでいいよ」
「ああ……」
 カスパルはリンハルトの腹の上に手をついて少しずつ腰を落としていった。結合は徐々に深くなっていき、竿の膨らみに沿ってカスパルの肉輪も広がってゆく。
「ふっ……ん、ぜんぶ入ったぞ」
 すべてが入りきったところでカスパルは大きく息をついた。
 カスパルの中は熱く湿っていて、リンハルトの陰茎に絡みつくように締め付けてくる。カスパルの呼吸に合わせて脈動する内壁が心地よくて、気を抜いてしまうとすぐにでも達してしまいそうだ。
「ん……動くからな」
 カスパルは短く宣言したのちに緩慢な動作で抽挿を始めた。初めは痛みに耐えるように目を閉じていたが、次第にその表情は蕩けていき、動きは大胆になっていく。
「あ、あ、あぁっ! いいっ……あっ!」
 カスパルが体を動かすたびに繋がった部分がぐちぐちと音を立て、泡立った体液が太腿を流れ落ちる。最初はぎこちなく上下していただけのカスパルの体は、いまは貪欲に快楽を求めて激しく揺れ動いていた。
「は、あ、あ、すげえ、気持ちいいっ」
「君、それしか言えないわけ?」
「うるせぇよ、お前だって、ん、こんなにしといて、なに言ってんだよ」
 カスパルは挑発的な笑みを浮かべて言い返すと、上体を前に倒してリンハルトに覆い被さるような体勢になる。そのまま前後に体を揺すり、性器が抜けそうなところまで引き抜いたかと思うと、勢いをつけて一気に根元まで挿入した。
「う、くぅ……ッ!」
「はっ、どうした? お前のほうこそ、声出てるぜ」
「それは、君が急に動いたりするからでしょ」
「へーえ、そういうことにしといてやるか」
 カスパルはにやりと笑ってさらに激しく腰を打ち付け、角度を変えながら何度も抜き差しを繰り返す。結合部では先走りや腸液が泡を立て、ブポッブポッと下品な音を響かせてリンハルトの鼓膜を震わせた。
「カスパル、ちょっと、激しすぎ……ッ」
「お前だって、いつもより興奮してるんじゃねえのか?」
「そりゃ、まあ、ね……ッ」
 カスパルは小刻みに尻を動かしながら、リンハルトの性器を自身の最奥へと押しつける。
 窄まった肉輪がカリ首に引っかかるたびに、リンハルトの目の奥にちかちかと火花のような光が散った。抽挿に伴う快感によってカスパルの性器も硬さを取り戻し、二人の腹の間で擦れては絶えず先走りを零している。
「は、あ、あ、あ……っ!」
「カスパル、そろそろ、僕、限界かも……っ、どいてくれないかなっ……」
 リンハルトはカスパルの腰を撫でて離れるように訴えるが、カスパルはリンハルトの首に腕を回して一層強く腰を押し付けてきた。
「ちょ、カスパル、聞いてるの……ッ!?」
「中に出しちまえよ。いいだろ?」
 カスパルはリンハルトの唇に軽く口づけてふたたび腰を振り始める。そのまま顔を下に移動させて胸元に舌を這わせ、汗の滲んだ皮膚を舐め上げた。
「やめ、カスパル、だめだってば!」
「なんでだよ。いいじゃねぇか。このまま一緒にイこうぜ」
「ほんっとに、君は……ッ!」
 カスパルの体内が精液を搾り取るように収縮し、その刺激に耐えきれずリンハルトはカスパルの中に射精してしまった。
「ん、はっ……熱っ……」
 熱い飛沫が体内に注ぎ込まれる感覚に、カスパルは小さく呟きながら身体を震わせる。そして、リンハルトの腹の上で自分も白濁を吐き出すと、脱力するように倒れ込んだ。
「あー、もう。中に出しちゃったじゃないか。お腹壊しても知らないよ」
「平気だって、これくらい」
 カスパルは悪戯っぽく笑い、後孔からずるりと性器を引き抜いた。栓を失ったそこからどろりと大量の液体が流れ出し、カスパルの太腿を汚していく。
「んっ……溢れてくるな」
 排泄感に似た感覚にカスパルはぶるりと背を震わせる。尻たぶを掴んでそこを押し開くと、はくはくと開閉する穴から残滓がとぷりと流れ出した。
「カスパル、自分でやってて恥ずかしくない?」
「いまさらお前の前で恥ずかしがることもねえだろ」
 カスパルは慣れた様子で後始末を済ませたあとふたたび寝台へと転がる。
「疲れた。寝ようぜ」
「やるだけやっといてそれ? まあ、いいけど。僕も眠いし……」
 カスパルを待っているうちにリンハルトにも睡魔が襲ってきた。リンハルトはひとつ欠伸をしたあと、隣で横になっているカスパルを引き寄せて抱き枕のように抱え込む。
「おい、苦しいって」
「僕の安眠の妨害をしたんだから、抱き枕くらいにはなってよ」
 不満を訴えるカスパルの声を聞きながらリンハルトは瞼を閉じる。
 鍛錬にしろ、かくれんぼにしろ、なんだかんだ言いつつカスパルに付き合ってしまうのは子供の頃から同じだった。めんどうだと思いつつ断ろうとも思わないのは、結局のところ、自分がカスパルに甘いからなのだろう。
 そんなことをぼんやりと考えながら、リンハルトは微睡みの淵に落ちていった。

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