あい、らしい
戦を終えてしばらくぶりに修道院へと戻ったリンハルトとカスパルは、酒を持ち寄ってカスパルの私室で雑談にふけっていた。
昔は生徒たちで溢れていた学生寮は、いまは兵舎として利用されている。カスパルの私室は二階にあるため、一階にあるリンハルトの私室よりはまだ周囲に人が少なく、こうして二人でのんびりしたい場合は自然とここに集まるようになっていた。
「……カスパル、顔が赤いけれど大丈夫かい? 熱、あるんじゃないの」
会話中にふとカスパルの様子がおかしいことに気がつき、リンハルトは机を挟んだ向かい側にあるその顔を覗き込む。
カスパルはもともと日焼けによって肌が色付いているため、多少紅潮したところでは変化がわからない。それがいまは明らかに赤くなっていた。
「わかんねえ……だるくはねえんだけど、妙に熱くてよ……」
カスパルはいつになく覇気のない声で答える。
カスパルの吐息は熱く、呼吸の間隔も短くなっていた。
酒に酔っただけなのであれば、呼吸が乱れたりはしないだろう。リンハルトは心配になり、診察のつもりでカスパルの身体に視線を走らせる。
そこで、彼の身体のある部分が変化していることに気がついた。股間が下衣越しにもわかるほど膨らんでいるのだ。
「なんだ、そういうことか。待ってるから厠で抜いてきなよ」
心配して損をした、とでも言わんばかりにリンハルトは大きく溜め息をつく。
リンハルトが女性であったならば張り手のひとつでも飛ぶところなのかもしれないが、そこはまあ男同士だ。
疲労などで意図せず勃起してしまう場合もあるだろうし、酒に精力剤のような成分が含まれている場合もある。そう考え、原因については問い出さないことにした。
「抜く? 抜くってなにをだよ」
「だから、それをだよ」
リンハルトはカスパルの股間を指で示す。
カスパルはその指を目で追い、自分の股間を指していることを確認すると、眉根を寄せて首を傾げた。
「わけわかんねえ冗談はやめろよ」
「いや、冗談じゃなくて……自慰してこいって言ってるんだけど」
回りくどい言い方ではカスパルには通じない。そう判断したリンハルトは直接的な言葉に言い改めた。
「じい……?」
カスパルはますます困惑した様子を見せる。
「まさか、知らないわけじゃないよね?」
「いや、ほんとにわからねえ……すまねえリンハルト、めんどうだと思うけど教えてくれよ」
リンハルトの態度から自慰というものが「常識的な知識である」と察したのだろう。カスパルは眉尻を下げて心底申し訳なさそうにリンハルトに訊ねた。
わからないことをわからないと素直に言える点や、他人に教えを乞うことを恥だと思わない点はカスパルの美点と言える。
……が、さすがにここまで無知だとは思わなかった。よく言えば純粋無垢だが、それで喜ぶのは幼児趣味の輩くらいだろう。
「自慰っていうのは自分の手で性器を慰めることだよ」
「性器を……慰め……? なんで慰めなきゃならねえんだ?」
「うーん……どこから説明すればいいのかな」
リンハルトはどうしたものかと溜め息をつく。
カスパルが性的な知識に疎いことは知っていたが、この年齢になってまさか勃起や自慰を知らないとは思わなかった。
カスパルは同年代の少年たちより発育が遅かったし、ガルグ=マクの戦い以降は実家とも絶縁していたため、誰かからそういった話を聞く機会がなかったのかもしれない。
とはいえ、知識がなくとも身体が成熟している以上溜まるものは溜まるだろう。いったい、いままでどうやって処理をしてきたのだろうか。
「まず、君のいまの状態が勃起状態ってことはわかるかい? その状態だと集中力が欠如したり、判断力が鈍ったりといろいろ弊害があるんだよ。現にいまも苦しそうだしね。勃起状態は射精すれば収まるから、手で性器を擦って刺激して射精を促すんだ。その行為のことを自慰って言うんだよ」
「なるほど……?」
カスパルはわかったようなわかっていないような曖昧な表情をしている。たぶん、ほとんどわかっていない。
「よくわかんねえから、手本を見せてくれねえか?」
「ええ……? いやそれはちょっと……というか、自慰は入浴や排泄と同じで人に見せるようなものじゃないんだよ」
「そ、そうなのか? でも、それならなおさらリンハルトにしか聞けねえし……」
カスパルは心底困ったという様子で、少し高い位置にあるリンハルトの目を見つめてくる。
カスパルが犬であったならいまごろ耳は縮んで垂れ下がり、尻尾は丸まって股のあいだに挟まっているのだろう。
そんな姿を想像してしまったせいか、リンハルトの中に「どうにかしてあげなければ」という庇護欲のようなものがふつふつと湧いてきた。
カスパルも男なのだし、これから先も自慰は必要になる。それに、彼には自分以外に頼れる人間がいないのだ。ここで自分が突き放すわけにはいかない。
大の男に対してそんな気持ちを抱いてしまうのは、幼なじみの情のせいか、それとも別の感情のせいだろうか。
なにはともあれ覚悟を決めたリンハルトは大きく深呼吸をした。
「……わかったよ。今日は僕が手伝ってあげるから、次からそれを真似して自分でやるんだよ」
「おう!」
元気良く返事をするカスパルを見て、リンハルトは再び大きな溜め息をつく。
めんどうだとは思うものの、この幼なじみのお願いはなぜか受け入れてしまうのが常だった。
「じゃあ、とりあえずそこに座って性器を出してくれないかな」
リンハルトはカスパルに寝台に座るように指示して自分もその隣に腰を掛けた。
カスパルは多少ためらう素振りは見せたものの、大人しく言われた通りに下衣を寛げて陰茎を取り出す。
カスパルの性器は大きさこそそれなりだったが、まだ皮を被っており亀頭の半分以上が隠れている。竿の色もほかの部位の肌とほとんど変わらず、カスパルが性的に未熟であることが見て取れた。
「触るけど、必要なことだから騒がないでよ」
なんだか幼い少女を言いくるめて強姦に及ぼうとする男のようだな……と、リンハルトは自分が口走った言葉に辟易しつつ、カスパルの性器に手を伸ばす。
「……うわ、これって仮性かな? めんどくさいなぁ」
ぶつくさと愚痴りながらカスパルの亀頭に触れ、包皮の先端を摘んで下に降ろす。ろくに使用したことがないのだろう、露になったカスパルの亀頭は初々しい桜色をしていた。
「いっ……!」
痛みを感じたのか、カスパルが小さく声を上げる。
「君、本当にほとんどここを触らないんだね。だから刺激に慣れてなくて痛むんだ。こんなことで痛がってたら本番のとき困るよ」
「本番……?」
「ああもう……今度ゆっくり説明するから、今は僕の言う通りにして」
「お、おう」
すべてを説明していたらまったく話が進まない。リンハルトはカスパルを強引に納得させたところで、改めてカスパルの性器を掌で包み込んだ。
「ん……っ……ふぅ……ッ……」
カスパルの陰茎はすでに熱を持ち始めており、少し扱くだけで硬さを増していく。カスパルは目を瞑り、荒くなっていく吐息を抑えようと口元に片手を当てていた。
「気持ちいい?」
「わかん……ねえ……なんか……変な感じだ……くすぐったいみてえで……ぞくぞくする」
カスパルは頬をますます紅潮させながら答える。
いまの心境を適切に伝える言葉が見当たらないのだろう。カスパルが紡ぐ言葉は語彙が幼いうえに、呼吸の乱れによって舌っ足らずになっている。
そんなカスパルに対して、リンハルトは背徳感にも似た高揚感を覚えていた。
もっといろいろな表情を見たい。いろんな声を聞いてみたい。そんな衝動に駆られ、リンハルトはカスパルの性器の鈴口に軽く爪を立てる。
「あッ!?」
カスパルは突然走った鋭い快感に身体を大きく震わせた。カスパルの性器がふるっと震え、先端からじわりと透明な液体が滲み出る。
「これが先走りと呼ばれるものだね。これで滑りが良くなって摩擦しやすくなるよ」
カスパルの初々しい反応にリンハルトの口角はますます上がるが、それを悟られないようあえて淡々と説明をした。
「さきばしり……?」
カスパルはぼんやりとした様子でリンハルトの言葉を繰り返す。既にだいぶ熱に侵されているようだ。行為のあとまできちんと記憶が残っているのかいささか不安ではある。
「次は竿を扱いてみようか。人によって好みがあるけど、こうやって上下に動かしたり、裏筋を刺激したりするのが一般的かな」
「あっ……! はぁ……っ、くぅ……!」
親指と人差し指で輪を作って根元から雁首までを往復させれば、カスパルは面白いように反応した。陰茎は既に腹につきそうなほど反り返っており、陰嚢もパンパンに張り詰めている。
「性器と一緒に陰嚢を弄る人もいるけど、これはけっこう好みが分かれるみたいだね。カスパルはどうだい?」
「ひっ……!?」
陰嚢を下から持ち上げるように揉んでみると、カスパルはビクッと腰を引いた。だが、彼の性器が萎えることはなく、それどころか止めどなく蜜を溢れさせている。
カスパルは陰嚢を弄られるのは好きなほうなのかもしれない。そう判断したリンハルトは、陰嚢を揉む手はそのままに竿を扱く手をますます激しくしていく。
「う……んぅ……ッ……! はぁ、んっ……」
カスパルは押し寄せてくる快楽に耐えかねたのか、両手で口を塞ぎ始めた。それでも声が抑えきれないらしく、喘ぎ声が隙間から漏れ出してくる。
普段の快活な彼からは想像できない姿だった。自分の手で幼なじみが乱れていく様に自身が高揚していくのを感じ、リンハルトは思わず喉を鳴らす。
「やべぇ……なんか……ちんこが熱い……。頭がくらくらしてきた……なあ、こういうときはどうすりゃいいんだ?」
カスパルは苦しそうに身を捩り、興奮と困惑が入り交じったような表情を浮かべた。性器への直接的な刺激によって射精が近付いているのだろう。
「射精しそうなだけだろうから、そんなに泣きそうな顔しなくてもいいよ」
「なっ……泣いてねぇ……うぁっ!?」
リンハルトは寝台から降りて床に膝立ちになり、カスパルの性器に顔を近づけて亀頭をぱくりと咥え込んだ。
「な、なにして……!?」
「なにって、口淫だけど。これも知らないのかい?」
亀頭をねっとりと舐められる感覚にカスパルの腰がびくんと跳ね上がる。舌先で尿道口をつつき、そのままぐりっと押し込むと、カスパルは悲鳴にも似た声を上げた。
「ひっ……! あ、あ……!」
リンハルトを引き剥がそうとしたのだろう、カスパルの手がリンハルトの後頭部に添えられる。
しかし、髪をひっぱるわけにはいかないと思い改めたのか、カスパルはすぐに手を離して敷き布を掴み、快感に耐えるような仕草を見せた。
リンハルトは陰茎を深く飲み込み、喉奥を使ってカスパルの亀頭を刺激する。喉を窄めて先端を粘膜で包み込むと、カスパルはぶるりと腰を震わせてリンハルトの頭を太腿で挟み込んだ。
「やめっ……だめだ、それ、やべえから……!」
カスパルの制止の声を無視して、リンハルトは性急な愛撫を続けた。
亀頭を責める舌はそのままに、根元から先端にかけて搾るように手を動かし、陰嚢をやわやわと揉みしだく。
「~~ッ!」
とどめとばかりに尿道を吸い上げると、カスパルは背中をしならせて声にならない声を上げた。
それと同時に口の中でカスパルの性器が大きく脈打ち、次の瞬間には苦味のある液体がリンハルトの口腔に流れ込んでくる。
「ん……ぷぁっ……」
カスパルの射精が終わったのを確認したリンハルトは性器から口を離し、自分の掌に精液を吐き出した。カスパルの精液はかなり濃く、どろどろの白濁がリンハルトの口腔を満たしている。
「うわ、すごく濃いね。量も多いし……本当に溜まってたんだ」
「す、すまねえ! 汚ねえよなそれ……」
カスパルは慌ててリンハルトに謝ったが、リンハルトは気にしていないというふうに首を横に振った。
「別にいいよ、勝手に口でしたのは僕だし。むしろ、こんなに溜め込んでてよく今まで平気だったね」
リンハルトは手の甲で口元を拭いながらカスパルの股間に視線を向ける。
体力旺盛な若者であるカスパルの性器は一度の射精では物足りないらしく、射精直後であるにも関わらず既に半勃ちになっていた。
「まだ足りないよね……ねえ、挿れてみるかい?」
「えっ?」
唐突な提案にカスパルは驚いた表情を浮かべる。
リンハルトは寝台に乗り上げ、自らの下衣も脱ぎ捨てて両脚を開いてみせた。カスパルへの口淫によってリンハルトの性器もすっかり硬くなっており、先端からは透明な雫が溢れている。
「ここに君の性器を挿入して、僕の中で摩擦するんだよ」
リンハルトはぷくっと膨らんだ自分の後孔に指を差し込み、軽く開いて中を見せてやった。
「んっ……潤滑油は持ってきてないけど、まあいけるでしょ」
カスパルに前戯の知識があるとは思えないため、リンハルトはカスパルの精液を指に絡ませて自分の後孔へと埋めてゆく。
第二関節まで埋めたあたりで軽く抜き差しをすると、くちゃくちゃと粘着質な音が室内に響いた。
その光景と音に興奮したのか、カスパルがごくりと唾を飲み込む音がリンハルトの耳にも届く。
「初めてだから最初は痛いかもしれないね。君の性器は刺激に慣れていないようだし……でも、すぐに気持ちよくなるはずだよ」
「え……いや、でもそれはまずいんじゃないのか? こういうのは恋人とやるもんじゃねえの?」
リンハルトの提案にカスパルは戸惑いの表情を浮かべた。疎いなりに「これは性行為である」「性行為は恋人とするものである」ということは判断できたらしい。
「まあ、一般的にはそういうものだけど……戦場にいれば男同士で処理をすることも少なからずあると思うよ。いい機会だし、慣れておくといいんじゃないかな」
「そ、そういうもんなのか……?」
カスパルは戸惑いながらも自分の性器を握り、リンハルトに覆い被さって後孔に亀頭を宛がう。そして、誘われるままゆっくりと腰を前に突き出していった。
「痛ッ……」
「大丈夫かい?」
小さな悲鳴を上げたのはカスパルのほうだった。
普段は包皮に覆われているカスパルの亀頭は刺激に対して過敏になっており、挿入時の摩擦で痛みを感じるらしい。
「いや、オレは平気だ……リンハルトこそ痛くねぇか?」
「別に……ああいや、ちょっと苦しいかな。でも大丈夫だよ」
「大したことはない」と言いかけたリンハルトは、そこで思い改めて言葉を正した。
カスパルに気を使ったつもりだったが、それではまるで「お前の性器が小さい」と言っているように聞こえかねないと気づいたのである。
「ゆっくり動けばそのうち馴染むはずだから……うん、そんな感じ……上手だよ、カスパル」
リンハルトに促されるままカスパルは慎重に腰を進めていく。
カスパルの緊張を解すように後頭部を軽く撫でると、安心したのか少しだけ身体の力を抜いたようだ。
「はっ……ふぅ……」
根元まで完全に埋め込んだところでカスパルはいったん動きを止めた。快感に耐えるように目をきつく瞑り、荒くなった呼吸を整えようとしている。
リンハルトはそんなカスパルの背中をさすってやりながら、自分の中に埋め込まれた熱の質量を感じていた。
カスパルの性器はリンハルトの直腸内でどくんどくんと脈打ち、ときおり思い出したかのようにびくりと震えている。
「どう、カスパル?」
「なんか……すげぇ熱い……ちんこ溶けそうだ……」
「はは……君らしい表現だね」
カスパルは熱に浮かされた様子で、とろんと蕩けた顔をしている。いつもの凛々しい表情とはかけ離れたその姿に、リンハルトは思わず笑みを漏らしてしまった。
「じゃあ、動いてみて。僕のことは気にしなくていいから、好きなようにしていいよ」
「わ、わかった……!」
カスパルはリンハルトの両脚を抱え込み、意を決したように抽送を始めた。
奥まで挿入された性器がゆっくりと引き抜かれ、亀頭が抜ける寸前で再び押し込まれる。
カスパルの動作はたどたどしく、いつになく必死なその様子とも相俟って、まるで少年のような幼さを感じさせた。
「あっ……! んん……!」
カスパルの性器が動くたびに、結合部からぐちゅぐちゅと卑猥な水音が響く。
不慣れだからなのか、リンハルトに気を使っているのか、カスパルの動きは緩慢であまり激しくはない。
しかし、それでもカスパルの性器が前立腺を刺激するたびにリンハルトの口からは甘い声が漏れた。
「んっ……!」
「だ、大丈夫か? やっぱり痛いか……?」
リンハルトの高い声に驚いたらしく、カスパルが慌てて動きを止める。
こちらを覗き込むカスパルの表情は不安げで、それが妙に愛らしく見えてリンハルトはまた小さく笑った。
「ああ、ごめんね。別に痛いわけじゃないんだ。むしろ、その逆というか……」
「ぎゃ、逆?」
「つまり、すごく気持ちいいってことだね。だからもっと動いてもいいよ」
「そ、そうなのか……?」
リンハルトの言葉にカスパルは安堵の息をつき、抽挿を再開する。
初めは遠慮がちだったカスパルの律動は徐々に激しさを増していった。肌と肌が激しくぶつかり合う乾いた音と、粘液が泡立つ湿った音が室内に響き渡る。
「はぁ、はぁ、リンハルト、すげえ、気持ちいい……」
カスパルは一心不乱に腰を振り続け、額に玉のような汗を浮かべていた。
リンハルトはカスパルの額にちゅっと口付け、頬を伝う汗の雫をぺろりと舐め取る。そのまま唇を合わせてもカスパルは嫌がる素振りを見せなかった。
カスパルの口腔に舌を潜り込ませ、奥で縮こまっている舌を絡め取って吸い上げる。その行為にすら快感を覚えたらしく、リンハルトは体内にある性器が更に膨らむのを感じた。
「僕も気持ちいいよ、カスパル……ねえ、もう出そうなんじゃない?」
固く尖ったカスパルの乳首を指の腹で転がしながら囁くと、カスパルはびくりと身体を震わせてこくこくと首肯する。
あどけないその仕草が可愛くて、リンハルトはカスパルの耳元に唇を寄せて甘くねだるように呟いてやった。
「我慢しなくていいよ……ほら、こうやったらもっと気持ちいいでしょ?」
「あ、馬鹿、やべえ、あ、あ、あッ……!」
膨らんだカスパルの乳首をきゅっと摘み上げ、同時に性器を強く締め付けてやる。するとカスパルは身体を仰け反らせ、掠れた悲鳴を上げながら達した。
リンハルトの体内でカスパルの性器がびくびくと痙攣する。
カスパルは何度か腰を動かして射精の余韻に浸っていたが、やがて力尽きたようにリンハルトの上に覆い被さってきた。
「はぁ……はぁ……」
「ん……疲れちゃったかな? 後始末は僕がしておくから、カスパルは寝ちゃってもいいよ」
背中をぽんぽんと叩いて労ると、カスパルは甘えるようにリンハルトの首筋に顔を埋めて頬を擦り付けてくる。
あまりの愛らしさにリンハルトはカスパルを襲ってしまいたい衝動に駆られたが、なんとかそれを押さえ込んで筋肉質な身体を優しく摩り続けた。
「……カスパル? 眠っちゃったのかい?」
数分後、返事の代わりに聞こえてきたのは穏やかな寝息だった。どうやら本当に疲れ果ててしまったらしい。
戦争が始まってからというもの、カスパルはいつもどこか張り詰めたような雰囲気を纏っており、こうして無防備に眠る姿を見るのは久しぶりだった。
ヘヴリング家は文官の家系なので戦場で親族と鉢合わせる可能性は低いが、武官であるベルグリーズ家はそうもいかないのだろう。現に、伯父とは既に交戦したと以前話していた。
「おやすみ、カスパル」
リンハルトはカスパルの頭を撫でながら穏やかに語りかける。
いつもより幼く見えるその寝顔を眺めながら、リンハルトもまどろみの中に落ちていった。
あい、らしい2
「リンハルト……」
寝台に寝転がるリンハルトの背中にカスパルがそっと抱きつき、甘えるように耳元に顔を寄せてくる。
体の関係を持ってからと言うもの、カスパルはときおりこうしてリンハルトに行為をねだるようになっていた。
「ん……したいの? しょうがないなぁ」
童貞に性行為を教え込んだのだから、こうなることはリンハルトも予想がついていた。だからよほど気分が乗らないとき以外は邪険にはせず、望まれるがままに応じている。
カスパルの誘い方は実に稚拙だ。
行為に持ち込むために雰囲気を作るだとか、リンハルトの機嫌を取るためになにかをするだとか……カスパルにそんな恋愛の駆け引きがわかるはずもなく、ただ甘えた声で名前を呼びながら体を擦り寄せてくる。
リンハルトにはその稚拙さが可愛くて仕方がなかった。
振り返ってカスパルの唇を塞ぐと、カスパルもそれが行為の合図だと察したらしい。嬉々としてリンハルトの口腔に舌を差し入れ、積極的に絡ませてきた。
「んぅ……ふっ……」
唇を食んで吸って、舌を絡めて唾液を流し込むと、カスパルはそれを美味しそうに飲み干してくれる。
「口付けの後に気持ちいいことが待っている」と学習したからなのか、しっぽを振る犬のような従順さで口付けに夢中になる姿はとても愛らしくていじらしかった。
口付けながらカスパルの衣服を脱がしていくと、カスパルもそれに倣ってリンハルトの衣服に手をかける。
口付けにしろ脱衣にしろ、カスパルはリンハルトがその行為を始めるまで自分からは行おうとはしなかった。まるで「待て」をされた犬のように、従順に次の行為を待っているのだ。
おそらくは、リンハルトから「いい」という意思表示が出るのを確認しているのだろう。
リンハルトが相手に牽引されることを望む性格であったならば、カスパルは「寝台における作法がなっていない」と言えるかもしれない。
しかし、リンハルトにはカスパルのこの拙さがむしろ魅力的に思えた。
「んむ……ッ!?」
口付けたまま指先で胸や腹筋を撫でると、くすぐったいのかカスパルは身を捩る。それでも構わずに肌の上を滑らせていくうちに、やがてカスパルは息を上げて身を震わせ始めた。
素直すぎる反応に気をよくしてさらに手を下へと這わせ、形を確かめるようにしてゆっくりと陰茎をさすってやる。そこは既に熱を帯びており、少し刺激するだけですぐに硬度を増していく。
「ん……きつそうだね。一回出しておこうか」
「え……あっ!」
下着ごと穿きものを取り去ると、カスパルの陰茎がぶるりと飛び出してきた。すでに勃起しているそれは先端から透明な雫を溢れさせ、自身の竿を濡らしている。
「あぁっ! はっ……っ」
それを軽く握り込んで上下にしごいてやれば、カスパルは腰を突き出しながらびくんと背を反らせた。同時に陰嚢も持ち上がり、今にも精液を放出しそうなほど張り詰めていく。
「んっ……ふ……う……っ」
絶頂が近いことを悟ったリンハルトは、カスパルの亀頭を口に含んだ。尿道口を舌先でこじ開けるように舐め回し、同時に会陰部をぐりっと指先で押し込んでやる。
「ひぁっ!? そこっ、なに、なんっ……!?」
途端に、カスパルの口から悲鳴が上がった。
「ここ、知らない?」
「知ら……ないっ、変……だ……っ」
未知の感覚に戸惑っているらしいカスパルに、リンハルトは笑みを浮かべてその場所にもう一度触れてやった。
「ここの内側にね、前立腺っていう器官があるんだよ。男性が肛門性交で快感を得られるのはそれのおかげなんだけど、肛門からではなく会陰部からでも刺激することができるんだ」
「ぜんりつせん……? んぅっ……!」
説明しながらも、リンハルトは会陰部に添えた手に力を込めてぐっぐっと押し込んだり離したりを繰り返した。そのたびにカスパルは甘い声を上げて内腿を引き攣らせる。
「僕が君と性行為をしているときに得ている快感を、いまの君も感じているってことだね。どう、気持ちいいかい?」
「わかっ……わかんね……っ……んぅっ……へん……だけど……っ……ふ……ぅっ……」
「けど?」
「んっ……もっと……してほしい……かもっ……んぅっ……」
「ふふっ、カスパルは本当に素直だよね」
リンハルトはカスパルの亀頭をぱくりと咥え、先端を舌先で愛撫しながら会陰部を揉み続けた。
「んっ……ふっ、んんっ……」
「もう出ちゃいそう?」
カスパルは必死に首を縦に振る。
その素直さが可愛くて、リンハルトは射精を促すように更に強くカスパルの陰茎を扱いた。
「いいよ、出しても」
「んっ、出るっ……うぁっ……あああッ!」
促すように鈴口に舌先をねじ込みながらぐっと会陰部を押し込んだ瞬間、カスパルの体が一際大きく震えた。それと同時に熱い飛沫が喉の奥に叩きつけられ、独特の苦味がリンハルトの口内に広がる。
「はぁ……はぁ……っ……ふ……」
カスパルは全身を弛緩させて荒い呼吸を繰り返していた。
絶頂の余韻に浸るカスパルの頬に軽く口付けてから、リンハルトはカスパルの手をそっと掴む。そして、それを自らの股間に導いて内腿にそっと触れさせた。
「ねえ、今日はカスパルが慣らしてくれないかな? カスパルもこういうの、ちゃんとできるようになったほうがいいよ」
「慣らすって……ここを指でほぐすってことだよな……」
カスパルは一瞬戸惑った表情を浮かべたが、すぐに意図を理解したようだ。普段リンハルトがするように香油で指を濡らしたあと、恐る恐るという様子で後孔に触れ、指先で軽くつついてくる。
「んっ……そうそう、ゆっくり入れてみて」
「わ、わかった……」
カスパルはこくりと小さくうなずくと、慎重に人差し指を差し入れた。異物を受け入れる違和感にリンハルトが思わず眉根を寄せると、「痛いか?」と心配そうに声をかけてくる。
「ん……大丈夫、続けて」
「こうか?」
慣れない動きではあるが、カスパルは懸命に指を動かして狭い肉壁を解していく。
そんな姿ですらいじらしく見えてしまい、リンハルトは思わず笑みを零しそうになるのを耐えながらカスパルに助言をしていった。
「カスパル、指をもう一本増やしてみようか」
「お、おう」
「うん、それで中をぐるっとかき混ぜるようにして……んっ、そこ……もう少し奥……そう、そこ」
カスパルの動きはぎこちないが、それでもリンハルトの言葉に従って後孔を解してゆく。
情事の最中とは思えないような神妙な面持ちのカスパルがおかしくて、リンハルトはつい口角を上げてしまった。だが、前戯に集中しているカスパルは気づいていないようだ。
「んっ、そこっ……気持ちいいっ……あっ」
カスパルの指先が偶然にも前立腺をかすめたようで、途端に強い快感が走り抜ける。
カスパルは驚いたように目を丸くしたが、すぐにそこが「いいところ」であることを察したらしく、重点的にそこを責め始めた。
「んっ、あっ……そこっ……もっと触って……あっ……ん」
リンハルトはカスパルの首筋にしがみついて耳元で甘く喘いだ。
カスパルはリンハルトの声に応えようとさらに指を増やし、二本の指を使ってぐりぐりとそこを刺激し続ける。
「んっ……いい、よっ……あっ……ね、前も触って?」
リンハルトはカスパルの手を取って自身の陰茎に導いた。すぐに意図を察したらしいカスパルはリンハルトのそれを掌で包み、ゆるゆると上下に扱き始める。
「んっ……ふっ……う……あぁっ!」
前後から与えられる快感にリンハルトは背を反らせて体を震わせた。刺激によって後孔がきゅっと締まり、内壁がカスパルの指の形をより明確に感じ取る。
「んっ、カスパル……もう挿れてもいいよ……んっ」
「えっ……こんなんでいいのか?」
「平気だから、ね? 早く僕の中にカスパルのを挿れてほしいな」
ねだるように腰を揺らすとカスパルはこくりと頷いた。リンハルトの後孔を解していた指を引き抜き、代わりに己の怒張をあてがう。
「じゃ、じゃあ……いくぞ?」
「ん……おいで?」
カスパルはゆっくりと体重をかけ、少しずつ自身を埋め込んでゆく。充分に慣らされたそこは痛みを感じることはなく、カスパルのものを悦んで受け入れた。
「あっ……ん……」
カスパルの亀頭がゆっくりとリンハルトの中に押し入ってくる。リンハルトの体内が馴染むまで待ってくれるようで、カスパルはなかなか挿入を進めようとはしない。
既に何度か身体を重ねているが、カスパルは毎回こうだった。
気遣いはありがたいのだが、このじれったさはどうにかならないものだろうかとリンハルトは思う。とはいえ、そういう優しさが好きなのも事実なので、文句を言うつもりはないのだが。
「カスパル、もう動いても大丈夫だよ」
「そ、そうなのか? 痛くないか?」
「うん、痛くないから」
「ならいいんだけどよ……」
カスパルは少し不安げにしていたが、やがて意を決したように抽送を始める。
最初はぎこちなかった動きも回数を重ねるごとに慣れてきたようで、今では円滑に動けるようになっていた。
「はぁ……はぁ……っ……ふ……」
カスパルは額から汗を流しながら必死に腰を動かしている。その姿を見ていると愛おしさが込み上げてきて、リンハルトはカスパルの頬にそっと手を添えた。
「んっ……気持ちいい……よっ……」
「ほんとか? オレもすっごくいいぜ」
そう伝えるとカスパルは嬉しそうに微笑んで唇を合わせてくる。
カスパルの性技ははっきり言って拙い。前戯もろくに知らず、抽挿も単調で技巧らしきものは何も持ち合わせていない。
だが、こうして一生懸命に自分を求めている姿を見ると、リンハルトの胸は不思議と満たされていった。
おそらく、リンハルトがカスパルと性行為をするのは快楽を得ることが目的ではなく、彼を愛することが目的なのだ。そのための手段として性行為があるだけで、そこに技巧など必要ない。
そういうことなのだろうとリンハルトは思うことにしていた。
「カスパル、もっと激しくしていいよ」
「でも、お前がつらいんじゃねえかと思って……」
力加減がわからないからこそ、過度に加減をしてしまうのだろう。カスパルは遠慮がちに眉根を寄せてリンハルトの顔を覗き込んだ。
「僕は平気だよ。君が気持ち良くなってくれる方が嬉しいんだ」
「けどよ……」
「言い方を変えよう。僕は激しいほうが好きなんだ。僕はこうして君に付き合ってあげてるんだから、僕のわがままも聞いてくれたっていいじゃないか」
「う……わかったよ。けど、つらかったら言ってくれよ?」
カスパルは少し迷う素振りを見せたものの、リンハルトの言葉に従って律動を再開した。
リンハルトの膝裏を抱えてぐっと腰を押し付け、深い位置まで挿入する。そしてぎりぎりまで引き抜いてはまた奥深くへと突き刺し、何度も繰り返しリンハルトの体内を穿った。
「んっ……あっ……ん……はぁっ……あっ……ん」
カスパルの剛直で内壁を擦られるたびに甘い快感が生まれ、結合部からはじゅぷじゅぷという淫猥な水音が響く。
カスパルは荒い呼吸を繰り返しながらも、リンハルトの感じる場所を探り当てようと懸命になっていた。
慣れないなりに相手を気持ちよくさせようとしている姿がいじらしく、リンハルトはカスパルの腰に脚を絡めて引き寄せる。
「カスパルっ……んっ……もっと奥まで入れても……大丈夫だからっ……」
「こ……こうか?」
「んっ……もっと強く突いて……あっ……ああぁっ!」
リンハルトの指示通りにカスパルが強く腰を打ち付けると、先端が最深部にまで到達した。瞬間、今まで感じたことの無いような強烈な快感に襲われ、リンハルトは思わず悲鳴にも似た声を上げる。
「あぁっ……んっ……そこっ……いいっ……あぁっ!」
カスパルは一心不乱といった様子でひたすら腰を打ちつけ、リンハルトの最奥を突き続けた。カスパルの陰茎が激しく出入りするたび、亀頭が内壁を擦って強烈な刺激を生み出す。
「あぁっ……あ……すごっ……いっ……いいっ……あぁっ」
「はぁっ……はぁっ……んっ……リンハルトっ……」
限界が近いらしく、カスパルは更に激しく抽挿を繰り返した。先ほどよりも強い力で内壁を擦られ、息が詰まるほどの快感が全身を走り抜ける。
絶頂が近いことを察したリンハルトが自分の性器に手をかけようとすると、それに気づいたカスパルが代わりに握り込んで上下に扱き始めた。
「んっ……一緒にイきたいの? ふふ、可愛いね」
「う……うるせえよ! あっ……くっ……」
リンハルトがくすりと笑うと、カスパルは照れ隠しのように反論する。そんな姿が愛おしくて、リンハルトはカスパルの首筋に腕を回してぎゅうっと抱き寄せた。
「あっ、もうっ、出るっ……!」
「んっ……僕も、もうだめかもっ……はぁっ……」
カスパルが一際強く打ち付けた瞬間、二人はほぼ同時に絶頂を迎えた。カスパルはリンハルトの体内に熱い飛沫を注ぎ込み、リンハルトもまた自らの腹の上に精液を吐き出す。
「はぁっ……はぁ……んっ……」
カスパルは余韻に浸るように何度か腰を動かしたのち、脱力したようにリンハルトに凭れかかってきた。
リンハルトを押し潰さないように重心を調整しているのだろう。のしかかってくるカスパルの重量はさしたるものではなかった。
「んっ……いっぱい出たね」
「わ、悪ぃ……」
「どうして謝るのさ」
リンハルトはくすくすと笑いながらカスパルの頭を撫で、首元に顔を寄せて唇を押しつけた。汗ばんだ肌に軽く吸い付いて刺激を与えると、カスパルはくすぐったそうに身を捩る。
このまま痕をつけてしまおうか――リンハルトは一瞬だけそう考えたが、すぐに思い留まった。
カスパルは自分の所有物というわけではないのだ。勝手に痕など付けて、誰かに見咎められたりしたら困らせることになるだろう。
いや、カスパルのことだからその痣がどういう意味を持つかわからない可能性もあるが……とにかく、あまり目立つ場所に痕を付けるのは好ましくない。
「ね……今日はカスパルのお尻を弄ってもいい?」
「えっ?」
ふと思い立って、リンハルトは自身に挿入したままのカスパルに訊ねてみた。きょとんとするカスパルをよそに、背後に手を回して肉付きのいい尻を撫でる。
筋肉質なカスパルの尻には女性のような滑らかさはないが、質のいい筋肉ならではの柔軟性があった。
それを撫でて張りのある肌の感触をひとしきり堪能したあとは、やわやわと揉み込んで大臀筋の膨らみを楽しむ。
それから谷間に指を滑らせて窄まりを指先でつつくと、カスパルは驚いたようにビクッと体を震わせた。
「カスパルのここ、いっぱい可愛がってあげたいな。駄目かな?」
「いや、駄目じゃねーけど……可愛がるって?」
後孔の縁に沿って円を描くようになぞりながら問いかければ、カスパルは困惑したように首を傾げる。
その反応に満足しながらリンハルトはカスパルの耳元に唇を寄せた。
「さっきも説明したでしょ? お尻の中にもね、気持ちよくなれる部分があるんだよ。前と後ろの両方で気持ちよくなれたらもっと楽しいと思うんだ」
「お、おう……そりゃあ、まあ、そうだな……」
カスパルは曖昧に相槌を打ちながら視線を泳がせる。おそらく、未知の快楽への期待と不安がせめぎ合っているのだろう。
そんなカスパルを安心させるべく、リンハルトは殊更優しい声音を意識して語りかけた。
「……ね? 僕に身を委ねてくれないかな。とっても気持ちよくしてあげるよ」
「わ……わかった」
「ありがとう。大好きだよ、カスパル」
リンハルトはちゅっと唇に触れるだけの口付けをしてカスパルの尻から手を離す。そして寝台の脇の小棚から小瓶を取り出すと、栓を開けて中身をカスパルの双丘の間に垂らした。
「ひぅ……冷てぇ……」
「ごめんね。でもすぐに温まるから」
いきなり指を入れることはせず、香油のぬめりを利用して按摩するように穴の周辺を優しく撫で回す。
肛門の周りを円を描くようになぞったり、ときおり爪を立てて引っ掻いたり……緩やかな愛撫を繰り返すうちに、徐々にではあるがカスパルの後孔は綻んできた。
それを見計らい、リンハルトは人差し指の先端を差し入れる。
「あぅっ……」
「痛い?」
「だ、大丈夫……続けてくれ……」
あやすようにカスパルの額や頬に口付けながら、リンハルトはゆっくりと指を奥へ進めていく。
「はぁっ……う……」
第二関節まで埋めたところでぐるりと内部をかき混ぜると、カスパルは苦しげに息を吐いた。
「カスパル、深呼吸できる?」
「ふー……はぁ……」
「いい子だね。そのまま力を抜いてて」
カスパルが言われた通りに深く呼吸をするのに合わせて、リンハルトは更に奥へと指を侵入させる。
そのうちに根元近くまで飲み込ませることができたので、今度は引き抜いて再び押し入れる動作を繰り返した。
最初は異物を押し出そうと内壁がぎちぎちと締まっていたが、何度も出し入れしているうちに段々と力が抜けてきた。
カスパルの声色にも甘い響きが含まれるようになり、表情も苦痛とは程遠いものに変わっていく。
「あっ、はぁ、あっ……」
「カスパル、わかる? 君の中、すごく柔らかいよ」
「うぁ……わか、んねぇ……腹ん中が熱くて、じんじんする……」
「それが気持ちいいって感覚なんじゃないかな。ほら、また中が震えたよ」
くん、と指を曲げて前立腺の裏側を刺激してやると、カスパルは背中をしならせて喘いだ。
その様子に興奮を煽られながらも、リンハルトは慎重にカスパルの後孔を広げていく。頃合いを見て中指も追加すると、カスパルは小さく喘ぎながらも健気に受け入れてくれた。
「カスパルのまた大きくなってきたね。僕の中で君のが膨らんでるのがわかるかい?」
一度射精して萎えていたカスパルの性器が体内で膨らむのを感じ、リンハルトは頬を緩める。
カスパルにも伝わるようにと後孔に力を込めると、その刺激でカスパルの性器がぴくりと動き、同時にリンハルトの指を受け入れていたそこが締まるのを感じた。
「ふふ、感じるとお尻の穴がきゅってなるんだね。可愛い」
「うぁ……言うな、ばか……!」
羞恥に耐えかねてリンハルトの肩口に顔を埋めるカスパルだったが、耳たぶまで真っ赤に染まっているためあまり隠れていない。
リンハルトはその愛らしさに微笑みながら、カスパルの耳に舌を這わせた。
「あッ……!」
耳の裏を舐め上げ、耳たぶを食んで吸い上げる。その間も指の動きを止めることはなく、三本の指でばらばらに動かしたり、ときおりまとめて突き上げたりした。
「ここ、コリコリしてるのわかるかな? これがカスパルの気持ちいいところだよ」
「ひぃっ! あッ、だめだっ、そんなにしたらッ……」
直腸内のしこりを指先で挟まれ、カスパルの体がびくびくと跳ねる。
「あ、ああッ……や、出るッ……~ッ!」
カスパルは悲鳴じみた声を上げながら二度目の絶頂を迎えた。リンハルトの中に収まったたままのカスパルの性器から精が放たれ、じわりとした熱がそこから広がる。
「はーっ……はーっ……」
カスパルはぐったりと脱力し、荒く呼吸を繰り返していた。
リンハルトはカスパルの中から指を引き抜き、汗で張り付いた前髪を払ってやる。
「気持ちよかった?」
「ん……」
カスパルはリンハルトに凭れながらこくりと首を縦に振った。
幼い子供のようなその仕草が愛らしくて、リンハルトは前髪を払った手でそのままカスパルの後頭部をそっと撫でる。
呼吸が落ち着いたカスパルは性器を抜くと、リンハルトの横に転がって甘えるように抱きついてきた。
「その……リンハルトもオレの中に挿れたい、のか?」
カスパルはリンハルトの肩に顔を埋めたまましどろもどろに口を開く。
そんな言葉を口にすることすら恥じらうカスパルの姿は、リンハルトの庇護欲を掻き立てるには充分だった。
「うーん……興味はあるけど、カスパルがしたくなったらでいいよ。無理強いはしないから」
「そうなのか? でも……なんか、公平じゃないだろ」
リンハルトの返答にカスパルは少し不服そうな表情を浮かべている。どうやら自分ばかりが挿入側になっていることに引け目を感じているらしい。
リンハルトが挿入側であれば、カスパルの技巧が拙くとも快感を得ることはできるだろう。自分の腕の中で貫かれてよがるカスパルもまた愛らしいに違いない。
しかし、それはリンハルトにとってさほど重要なことではなかった。
「君が気持ちよくなってくれる方が嬉しいって言ったでしょ? たぶん、君のそこはまだ性器の挿入では快感を得られないと思うし」
「なら、いいんだけどよ……」
カスパルが納得しかねるといった様子で眉根を寄せたので、リンハルトはカスパルの前髪をかき上げて額に口付ける。大抵のことはこれで誤魔化されてくれるのがまたカスパルの可愛いところでもあった。
「ふぁ……なんか眠くなってきたぜ」
カスパルはくあ、と猫のように欠伸をして寝台に寝そべる。食べたらすぐ寝る子供のような行動に、リンハルトは再び笑みを漏らしてしまった。
カスパルはいつもそうだ。行為のあとは必ずと言っていいほど眠そうにしている。体力がないわけではなく、むしろかなりあるほうなのだが、終わった後にはなぜか睡魔に襲われるらしい。
「疲れたんだろうね。寝ちゃってもいいよ、後始末はしておくから」
「いや、いつもそれだと悪いし……」
働かざるもの食べからず、というような価値観を持つカスパルにとって、後始末を他人に任せっぱなしという状況は居心地が悪いのだろう。
とはいえ、カスパルに任せては効率が悪いどころかリンハルトの仕事が増えそうですらある。自分でやるのは確かに手間だが、今はそれがリンハルトにとってもっとも楽な選択肢と言えた。
「そう? じゃあカスパルが僕のここに指を入れて掻き出してくれるんだ?」
リンハルトはカスパルの手を取って自分の秘所に触れさせる。行為後のそこは未だ熱を持ってひくついており、カスパルの指が少し触れただけでも敏感に反応を示した。
「あ……いや、これはちょっと恥ずかしいな……」
カスパルは頬を赤らめ、戸惑うように視線を泳がせる。
「だったら大人しくしててよ。君がもうちょっと慣れてきたらそのときは任せるから」
「う……わかったよ。ありがとな」
カスパルは観念したのか礼を言うと、そのまま目を閉じて眠りに落ちてしまった。
「……まあ、別に今のままでも僕は構わないんだけどね」
寝息を立てるカスパルの髪を優しく撫で、リンハルトはぽつりとつぶやく。
体が成熟してもなお少年のような拙さを残すカスパルのことが、リンハルトは愛おしいと思う。それは庇護欲なのかもしれないし、あるいは、別の感情なのかもしれない。
リンハルトはその答えを求めぬまま、自分もまた眠りにつくべく目を閉じた。