ごめん、可愛い
「まったく、君はいつも無茶をするよね」
「痛っ……」
カスパルの右腕に処置を施しながらリンハルトは何度目かの溜め息をつく。
先日の戦で先陣を務めたカスパルは、格闘部隊を引き連れて敵陣に切り込んだ。その際に利き腕を骨折したらしく、帰還したときには腫れ上がった右腕をぶら下げていたのである。
カスパルが無茶をするのは毎度のことだし、それによって帝国軍に何らかの利益が発生しているのも確かだ。そうであっても、もう少し自分の命を大切にしてもいいだろうとリンハルトは思わずにはいられない。
「はい、終わり。しばらくは鍛錬もできないし不便だろうけど、君は不便を味わっておいたほうがいいよ」
そうすれば少しは自分の身を大切にするようになるだろう――というのがリンハルトの理屈だったが、そこまでは口にしなかった。
カスパルは「なんだよ、それ」と唇を尖らせる。
利き腕を布で吊っているカスパルは食事すらうまく行えず、左手でなんとか食器を使うもののぽろぽろと零してしまっていた。
リンハルトは「ね? 怪我すると不便でしょ」と指摘しながらカスパルの持っている食器を受け取り、食事を口まで運んでやる。
不服そうな表情をしながらも大人しく口を開けるカスパルは雛鳥のようで愛らしく、これは悪くないかもしれない……などとリンハルトが思い始めた頃のことだった。
「カスパル、入っていい?」
カスパルの容態を確認するために兵舎の二階を訪れたリンハルトは、彼の私室の扉を軽く叩いた。
いざというときの保険として、リンハルトとカスパルはお互いの部屋の鍵を所有している。とはいえ、あくまで保険なので基本的には無断で部屋に入るようなことはしていなかった。
カスパルの返事は聞こえてこない。
寝ているのか、それとも発熱などをして返事をする気力がないのか――後者であったなら放っておくわけにはいかないだろう。
リンハルトは「大丈夫かい? 入るよ」と断ってから扉をそっと開く。
結果として、カスパルは起きていた。だが、行為に熱中するあまりリンハルトの声が聞こえなかったようだ。
行為――というのはつまり自慰である。
カスパルは下半身を露出したまま寝台に腰をかけ、左手で反り立った性器を握っていた。
リンハルトが見ていることにも気づかず、カスパルは無我夢中で手を動かしている。性器が摩擦されるたびに先走りがくちゅくちゅと音を立て、粘着質な水音が室内に反響した。
快感に堪えるように閉じられた瞳や、ふっ、ふっ、と押し殺したような吐息――普段の快活なカスパルからは想像もできない艶かしい姿に、リンハルトの背中にぞくりとしたものが走る。
「カスパル」
リンハルトはそっとカスパルに近づき、息を吹きかけるようにして耳元で囁いた。
「へ!? あっ……?」
絶頂に至ろうとしていたらしいカスパルはびくりと肩を揺らしてリンハルトを振り返る。自慰を目撃されて羞恥を覚えたのか、カスパルの頬がかあっと真っ赤に染まり上がった。
「あ、その……これは」
慌てふためく姿に嗜虐心が刺激され、リンハルトはにまりと唇を吊り上げる。
「カスパルも自慰することあるんだね。そういうの、興味ないのかと思ってたよ」
「う……そ、そりゃあ生理現象なんだから仕方ねえだろ」
「うん、仕方ないよね。だから恥ずかしがらなくてもいいんだよ」
リンハルトは寝台に乗り上がって宥めるようにカスパルの背中を抱き締めた。そのまま繰り返し耳元や首筋に口づけを落とすと、腕の中の身体が震えるのがわかる。
「ふふ、カスパルの身体は正直だね」
リンハルトは上機嫌に呟きながらカスパルの性器に触れた。
立ち上がったそれは熱を持って震えており、先端からだらしなく先走りを溢れさせている。その先走りを指に絡めるようにして先端を撫で回し、軽く爪を立ててぐりぐりと尿道を刺激した。
「あっ……ひ、っ……り、リンハルト……」
カスパルは力無くリンハルトの手を握るだけで引き剥がそうとはしない。それどころか、更なる愛撫をねだるように腰を揺らしていた。おそらくは無意識なのだろう。
切羽詰まったカスパルの声や仕種に、リンハルトは庇護欲とも嗜虐心とも取れる感情が湧くのを感じていた。もっと気持ちよくしてあげたい。もっと乱れる姿を見てみたい。
「ぅあっ……!」
リンハルトはカスパルの性器をきゅっと握り込み、そのまま上下に扱き始めた。輪にした指で雁の裏側を摩擦すると、カスパルの身体が大袈裟なほどに跳ね上がる。
「ひっ……あっ! あ、あ……っ」
強い快感から逃れようとカスパルが腰を引くが、リンハルトは構わずに手を動かし続けた。カスパルもすぐに観念したのか、リンハルトに身体を預けて甘い吐息を零し始める。
「可愛い……可愛いね、カスパル」
「んっ……ぁ、あ……」
耳元で何度も囁きながら手を動かしているうちに、カスパルの太腿がぴくぴくと痙攣し始めた。日に焼けた逞しい太腿が快感に打ち震える様子が愛おしく、リンハルトはたまらず目を細める。
「リンハルトっ……あ、なんか……変だ……っ」
カスパルは困惑した様子で腰を揺らし、涙を浮かべてリンハルトを見上げた。初めて受ける他人からの愛撫に戸惑っているのだろう。しかし身体は素直なもので、先端からは止めどなく蜜が溢れていた。
「あ、あ……っ、リンハルト……!」
「……ね、自分の気持ちいいところわかるでしょ? 僕に教えてよ。もっと気持ちよくしてあげるからさ」
リンハルトはカスパルの耳たぶに口づけながら囁いた。熱を含んだ吐息を耳に吹きかけると、カスパルの身体がびくりと跳ねる。そのまま唾液で濡れた舌を軟骨に沿って這わせれば、開きっぱなしの唇から嬌声が漏れた。
「ん、んん……っ」
射精寸前で思考能力が低下しているのか、カスパルは言われるがままに性器を握り直して上下に動かし始める。
しかし、羞恥心が残っているらしく目はぎゅっと瞑ったままだった。耳まで赤く染めて自慰をするカスパルの姿は非常に煽情的で、リンハルトは思わずごくりと唾液を呑み込む。
「普段するとき胸や玉は弄るのかな? 左手しかないと自分じゃできないよね……手伝ってあげるから教えてほしいな」
リンハルトはカスパルの衣服をたくしあげ、胸元や股間に手を伸ばしてゆるゆると刺激を与え始めた。胸の先端を指の腹で擦り、もう片方の手で陰嚢をやわやわと揉みしだく。
「ぅあ、ひっ……!?」
突然の刺激に驚いたらしく、カスパルは裏返った悲鳴を上げて目を見開いた。しかし、すぐに押し寄せる快感に耐え切れなくなったようで、蹲るようにして背中を丸めてしまう。
「乳首敏感なんだね。普段から弄ってるでしょ?」
「し、してねえ……っ」
「嘘だよね? 開発してない乳首はこんなに敏感じゃないんだよ」
カスパルの乳首は少しの愛撫にも敏感に反応してぷっくりと膨らんでいた。リンハルトはそんなカスパルの胸の突起を指先で軽く弾き、指の腹で押し潰して痛みを伴う快感を与える。
「……っぅう……ん……!」
「ほら、声も我慢しなくていいんだよ」
リンハルトが指先でくりくりと突起を捏ね回すと、そのたびにカスパルの身体がびくびくと跳ねた。反り立つ性器からは先走りがとめどなく流れ、カスパルはリンハルトの腕の中でがくがくと身体を痙攣させている。
「りっ、リンハルト、もう……っ」
限界が近いのだろう。カスパルは切羽詰まった声で訴えかけてきた。
潤んだ瞳や紅潮した顔、口の端からだらしなく垂れた唾液や震えた声――普段のカスパルが見せないその姿に、リンハルトの下肢がますます熱くなっていく。
「うん、いいよ。出してごらん」
リンハルトはカスパルの手の上から彼の性器を握り、絶頂を促すように強く扱き上げる。それと同時に精液を押し出すように陰嚢を揉みしだくと、カスパルの背中がぶるりと震えた。
「うっ、ぁ、ああっ……!」
カスパルは一際大きく身体を震わせながらリンハルトの手の中で吐精した。尿のように濃い精液が大量に噴き出し、掌に収まりきらなかった白濁がぼたぼたと滴り落ちていく。
「たくさん出たね。怪我のせいで自慰できなくて溜まってたのかな」
「はあ……っ、は……」
カスパルは背を丸めたまま荒い息を吐き出している。余裕のない様子が愛おしく、リンハルトは慰撫するようにカスパルの腹を撫で擦った。
「……なら、これだけじゃあ足りないよね?」
リンハルトは下穿きをずり下ろすと、カスパルの精液で濡れた手で自身の秘部に触れる。
リンハルトのそこは期待で蕩けきっており、精液を纏った指先を呑み込んで更にひくついた。まるで待ち望んでいるかのように中が収縮する感覚に、リンハルトは甘い吐息を漏らす。
「リンハルト、何を……」
「男同士のやり方は知ってる? 僕のここに君のを挿れるんだよ。……嫌かな?」
ここ、と言いながら自身の秘部を指し示すリンハルトに、カスパルは驚いたように目を見開いた。言葉を失ったまま何も言えないらしく、視線をうろうろと彷徨わせている。
その初々しい反応が可愛くて、リンハルトは「ふふ」と笑みを零した。
「カスパルが嫌ならやめておくよ。無理強いはしたくないし」
リンハルトは体を起こして衣服を正すと、カスパルの額に口づけて寝台から降りようとした。
しかし、カスパルの手が服の裾を掴んでいたため動きを止める。
「……い……嫌じゃねえ、けど」
カスパルは羞恥に耐えるように俯きながらもリンハルトを離そうとはしなかった。
「でも、オレ、こういうの全然わからねえし……」
カスパルは言葉を濁しながらもごもごと口を動かす。
「オレとお前は親友だけど……こういうことって、その、友達同士じゃしないんじゃねえのか?」
「そうだね。一般的には恋人同士がすることだよ」
リンハルトはカスパルの耳元へ唇を寄せた。そのままねっとりと舐め上げながら言葉を続ける。
「でも僕はカスパルが好きだから、こういうことをしたいんだ。君は嫌かい?」
「嫌じゃ……ねえ」
カスパルは消え入りそうな声で答えると、リンハルトの服の裾をぎゅっと握り直した。幼い子供のような拙い仕種が愛らしく、リンハルトの胸がきゅうっと締め付けられる。
「よかった。大丈夫、ちゃんと気持ちよくしてあげるからね」
リンハルトはそっとカスパルの上体を押し倒してその上に覆い被さった。法衣を肩から滑らせるようにして脱いでゆくと、目のやり場に困るのかカスパルは視線を泳がせる。
格闘部隊を率いているカスパルにとって、男性の裸など見慣れたもののはずだ。それを見ることに抵抗を示すということは、カスパルがリンハルトを意識しているということだろう。
――あのカスパルが、である。
その事実にリンハルトは興奮せざるを得なかった。
「……ひゃっ!?」
射精によって萎えた性器を口に含むと、カスパルは驚きの声を上げる。
「まっ、それっ、汚ねえからっ!」
慌てて腰を引こうとするカスパルに構わず、リンハルトは亀頭を自身の口内へと導き入れて先端を吸い上げた。カスパルは強い快感に戸惑っているのか、声を荒らげつつもさしたる抵抗はせず身を震わせている。
「あっ、あぅ……」
リンハルトはカスパルの性器を根元まで飲み込み、喉の奥で先端を扱いた。陰嚢を優しく揉みしだきながら舌先で裏筋や雁首を擽ってやれば、カスパルのそれは徐々に硬さを取り戻していく。
「ん……大きくなったね」
口内の質量が増したのを確認したリンハルトが口を離すと、すっかり反り立ったカスパルの性器が姿を現した。
カスパルの性器は形こそ大人のそれだったが、亀頭はまだ淡い色をしていた。その未熟な性器が唾液に塗れてぬらぬらと光る姿は背徳的で、リンハルトの興奮を更に煽ってゆく。
「は……っ、ぁ」
カスパルはというと、とろんとした表情で息を荒げていた。快楽に溺れかけた瞳は虚ろで、半開きになった唇から覗く舌先が艶めかしく濡れている。
可愛いすぎてめちゃくちゃにしてしまいたい――というのがリンハルトの正直な気持ちだった。
だが、カスパルに無体を働きたくないのできちんと順序を踏みたい、というのもまた正直な気持ちだ。
「準備するからいい子で待っててね?」
リンハルトは自らの指先を自分の秘部へと挿入し、カスパルの先走りを塗り込むようにして内部を広げていく。自分のいいところを探すようにしてゆっくりと抜き差しを繰り返すと、そのたびに粘着質な水音が室内に響き渡った。
「ふ……ぅ……ん」
リンハルトはカスパルに見せつけるように腰を突き出して自分の秘部を弄る。
リンハルトの性器はカスパルの痴態によって既に立ち上がっていた。カスパルの視線が自身の性器や秘部に向けられているのを感じ、リンハルトのそこはますます熱を帯びてゆく。
「リンハルト、オレ、もう……」
我慢の限界だったのか、カスパルは切羽詰まった声で名を呼びながらリンハルトを抱き寄せた。そのまま甘えるように頬擦りされ、リンハルトはぞくぞくと背筋を震わせる。
人を素手で殺せるほどの膂力を持っているにも関わらず、相手に襲いかかることもできないのだ、この男は。
いや、おそらくは――どうすれば自分がいま置かれている状況を解決できるのかを理解していない。だから、リンハルトにどうにかしてほしいと頼んでいるのだ。
カスパルがそういった人種であることはわかってはいたものの、あまりにも無知で未熟なその反応は、リンハルトの中に秘められていた何かを喚起させるのに充分だった。
「うん、一緒に気持ちよくなろうか」
リンハルトは腰を浮かせてカスパルの亀頭に自身の後孔をあてがうと、そのままゆっくりと腰を落としていく。質量のある肉塊が秘部を押し拡げる感覚に、リンハルトはほうっと熱い息を吐き出した。
「う、あ……っ!」
カスパルは苦しそうな声を上げながらも、リンハルトが行為を進めるのを待っている。初めて感じる他人の体内の感覚に戸惑っているらしく、眉根を寄せて荒い呼吸を繰り返していた。
「あ、あっ……カスパル……」
リンハルトはカスパルのものを受け入れながら、切なげな吐息と共に彼の名を呼んだ。カスパルの性器がずぶずぶと体内に入ってくる感覚が心地よく、全身が歓喜で打ち震えて肌がぞくぞくと粟立つ。
やがて自身の尻がカスパルの股間に触れたのを感じたリンハルトは、そこで一度動きを止めてカスパルの顔を見下ろした。
「ん……ぜんぶ、入ったよ」
リンハルトがそう言って結合部を指でなぞると、カスパルは恥ずかしそうに目を伏せた。その初心な反応が可愛くて、リンハルトは思わず頬を緩めてしまう。
「じゃあ、動くからね。つらかったら言ってね?」
「んっ……」
カスパルはほとんど吐息のような返事をしながらこくりと頷く。
そんなカスパルの挙動ひとつにすら愛おしさを感じつつ、リンハルトは腰を揺らし始めた。初めはゆっくりと、次第に速く。自分の感じるところに当たるよう角度を調整しながら抽挿を繰り返してゆく。
「ぁ、あっ、ぅあ……っ」
「ふふっ……カスパルの、また大きくなったね」
リンハルトは恍惚とした表情で呟いた。内壁が絡みつくたびにカスパルの口からは甘い声が漏れ出し、その声に煽られたリンハルトは一心不乱に快楽を追い求めていく。
「は、あっ……カスパル、気持ちいい……?」
「ん、うんっ……」
リンハルトが問いかけるとカスパルはこくこくと首を縦に振った。カスパルもきちんと快楽を得ているらしく、リンハルトの体内にある性器が質量を増していくのを感じる。
「よかった……僕も、すごくいいよ……」
リンハルトはうっとりと呟いたのちに腰を上下させる速度を早めた。ぱん、ぱちゅんと肌同士がぶつかり合う音が部屋に響き、狭い室内に淫靡な空気が充満していく。
「ふっ、はぁ……カスパル、好きだよ」
リンハルトは身を眺めてカスパルに口づけた。舌を差し入れて絡ませ合えば唾液が混じり合い、頭の芯まで蕩けそうになる。
「あ、あぁっ……リンハルト、オレ……っ」
カスパルは掠れた声でリンハルトを呼びながら切なげに身を捩らせた。
その訴えに応えるようにして、リンハルトはカスパルの亀頭を最奥に押し当てる。ぐりぐりと腰を回しながら内壁をうねらせると、カスパルは堪えきれないといった様子でリンハルトの首に片腕を回してきた。
不自由な身体で懸命に求めてくるカスパルが愛おしく、リンハルトは自身がますます昂っていくのを感じる。触れていない性器からはだらだらと先走りが溢れ出し、竿を伝って垂れ落ちたそれが根元の茂みを濡らしていた。
「はあっ……カスパル、可愛いね……もっと気持ちよくなっていいからね」
リンハルトはカスパルの耳元に顔を寄せて甘く囁いた。そのまま耳たぶを甘噛みしながら腰を打ち付け、膨らんだ乳首を指の腹でくにくにと転がす。
「んっ、あっ……ぁああっ……!」
カスパルは悲鳴じみた声を上げて身体を痙攣させた。
突起をつねったり押し潰したりするたび、カスパルの性器がリンハルトの中で脈打つのを感じる。その反応が可愛くて、リンハルトは執拗にそこを攻め続けた。
「あぅ……り、リンハルト……っ、も……出る、から……」
カスパルの嬌声は次第に泣き声混じりのものへと変化していき、がくがくと脚を震わせながらリンハルトの名前を呼ぶ。快感からなのか未知の感覚への恐怖からなのか、カスパルの目尻からはうっすらと涙が伝い落ちていた。
「んっ……いいよ、僕の中に出して」
絶頂が近いことを察したリンハルトは、カスパルの胸元に口づけを落としながら微笑んだ。カスパルのものを締め付けたまま小刻みに腰を揺すって、自分の気持ちいいところに擦り付けるようにして抜き差しを繰り返す。
「ぅあ、あっ……ぁ!」
やがてカスパルの体が大きく跳ねたかと思うと、リンハルトの体内に熱い飛沫が放たれた。それを受けてリンハルトもまた絶頂を迎え、背を弓なりにしならせて自身の性器から白濁を吐き出す。
「あっ……すごい……たくさん出てるね」
どくんどくんと脈打つ性器を最奥に感じながら、リンハルトはうっとりと目を細めた。カスパルが吐き出したものを一滴残らず搾り取ろうとするかのように、自分の中が収縮しているのを感じる。
「はー……っ、はー……」
カスパルは焦点の定まらない目で天井を眺めていた。全身から力が抜けてしまったらしく、ぐったりと寝台に横たわっている。
「疲れちゃったかな? ごめんね」
リンハルトはカスパルの身体を優しく抱き締めて頭を撫でた。
カスパルは少しくすぐったそうに身じろいだ後に、ゆっくりとリンハルトの顔を見上げる。潤んだ空色の瞳はどこか虚ろで、まだ快感の余韻が残っているように見えた。
「あ……悪い、ぼーっとしてた……」
カスパルは荒い呼吸の合間にそう呟くと、リンハルトの背中に腕を回して抱き締め返す。
その仕種に胸の奥がきゅうっと甘く締め付けられる感覚を覚えつつ、リンハルトはカスパルの背中を優しく撫でさすった。
「リンハルト……」
カスパルは息を整えてから顔を上げると、気恥ずかしげにリンハルトの名を呼んだ。その意図を察したリンハルトは、くすりと微笑んでカスパルの唇に自分のそれを重ねる。
「ふふ、可愛いおねだりだね」
「うっせ……」
カスパルは拗ねたように目を逸らす。
しばらくその状態で抱き合っていたが、やがてどちらともなく顔を見合わせて笑い合った。そのまま何度も軽い口付けを交わしつつ、互いの身体に触れ合って余韻を楽しむ。
その過程でカスパルが負傷していたことをやっと思い出し、リンハルトは介助の準備をするために身体を起こそうとした。
「ん……っ、カスパル……?」
しかし、カスパルはそれを引き止めるようにしてリンハルトの腰に手を回すと、ぐっと引き寄せて首筋に顔を埋めてくる。
リンハルトは戸惑いがちに名を呼んだが、カスパルは何も言わずに鼻先をすり寄せるだけだった。
まるで離れたくないと言わんばかりに抱きついてくる幼なじみを愛おしく感じて、リンハルトはカスパルの背中をぽんぽんと叩く。
「……怪我で心細くなっちゃったのかな? 大丈夫だよ、怪我が治るまでは僕が側にいるからね」
カスパルはリンハルトの言葉に安心したように小さく息を漏らし、それからそっと目を閉じた。程なくして穏やかな寝息が聞こえ始め、リンハルトはカスパルが眠りに落ちたことを確認する。
「……君はいつもがんばりすぎなんだよ。怪我したときくらい誰かに甘えるといい」
リンハルトは微笑んで呟くと、カスパルの額に優しく口付けを落とした。そして彼を抱き締めたまま自身も瞼を閉じ、「おやすみ、カスパル」と小さく告げる。
翌日、目を覚ましたカスパルは昨晩のことを思い出して顔を赤らめていた。
「わ、悪い……変なことしちまって……」
カスパルは心底申し訳なさそうな表情を浮かべてリンハルトに謝罪する。飼い主に叱られた犬のような様子がなんだか可愛くて、リンハルトは口元を綻ばせた。
「謝らなくていいよ。僕は嬉しかったし……ふふっ」
「な、なんだよ!」
急に笑い声を上げたリンハルトが不可解だったのか、カスパルは拗ねたような顔で睨んでくる。
「ごめんね? 君が可愛いから、つい」
「かわ……っ!? お前までそんなこと言うのかよ」
カスパルは不満げに唇を尖らせるとリンハルトに背中を向けた。
「ねえ、カスパル」
「なんだよ……」
そんなカスパルを後ろから抱きしめ、リンハルトは耳元で囁く。
「君が望むならいくらでもしてあげるよ。だからもっと僕を求めて?」
リンハルトはカスパルの耳朶に軽く口づけ、前歯を使って甘噛みをした。カスパルの肩がぴくりと震え、耳元までが真っ赤に染まっていく。
「……ごめん、やっぱり可愛いや」
リンハルトはくすくすと笑いつつカスパルの耳を唇で挟み込み、ちゅっと音を立ててもう一度口づける。そうしながらカスパルの手の甲をするりと指先で撫で上げ、指先を絡め取って優しく握り締めた。
白昼夢も仕方がない
冬が明けたばかりの帝都はまだ少し肌寒かったが、それもまた季節の移ろいを感じさせてくれた。
戦争が始まってからというもの季節もなにもない生活を送っていたリンハルトは、そんな些細な変化を感じられるくらいには心が休まっている自分に気がつき安堵する。
「ああ、ここだここ。焼き菓子が美味しいって評判の店」
リンハルトは漂ってきた甘く香ばしい香りに誘われて足を止めた。
帝都の若者たちに人気だというこの焼き菓子店は、貴族が利用するような豪奢な店構えではないものの、素朴で温かみのある雰囲気が人々に好まれているのだという。
「こういうとこ、男一人じゃ入りにくいからさ。カスパルが来てくれて助かるよ」
「そんなもんなのか? 飯食うだけなんだから人数なんて関係ねえだろ」
こういった店と縁のないカスパルにリンハルトの心情は理解しがたいらしく、空色の目を丸くして不思議そうに首を傾げる。
正直に言えば、リンハルトも人目を気にするような性格ではないのだが――カスパルを焼き菓子店に誘う理由として、その言い訳はちょうどよかったのだ。
焼きたての菓子の香りに包まれながら、リンハルトとカスパルは店内の席に着いた。素朴な内装の店内は燈が放つやわらかな光に包まれており、華やかではないものの居心地がいい。
「僕はこれを注文するけど、カスパルはどうする?」
「……なに頼めばいいのかわからねえ」
小洒落た焼き菓子の名称がなにを表しているのかわからないらしく、カスパルは献立表を見ながら疑問符を浮かべている。
「そっか、じゃあ僕がカスパルのぶんも選んじゃってもいい?」
「おう、頼んだぜ」
カスパルが頷いたので、リンハルトは店員を呼び寄せて二人ぶんの注文を済ませた。
厨房の奥からは甘味料の匂いや焼き釜の中で食材が焼ける音などが漂ってくる。味だけでなく匂いや音すらも楽しめるのが、この店の持つ魅力のひとつなのだろう。
「……うまい!」
ほどなくして運ばれてきた焼きたての菓子を頬張るなりカスパルは目を輝かせた。木の実と果物が入った焼き菓子は砂糖を使わず甘みを出しているため、甘いものを好まないカスパルにも食べやすいはずだ。
「リンハルトもほら、食ってみろよ」
カスパルは次々と焼き菓子を頬張りながら嬉しそうに顔をほころばせる。その食べっぷりを見ているとこちらまで幸せな気分になるから不思議なものだ。
カスパルの笑顔に促されてリンハルトも焼き菓子を口に運ぶ。焼いたばかり菓子は温かかった。噛むたびに果物の甘味がじわりと染み出し、木の実の風味が舌の上で優しく溶けていく。
「うん、おいしいね」
「だろ!」
カスパルはまるで自分のことのように誇らしげに胸を張る。
ここならカスパルも楽しめるだろうと思ってこの店を選んだのだが、想像していたよりずっと幸せそうに菓子を頬張るものだから、リンハルトも自然と頬がゆるんでしまう。
「なんだよ、じろじろこっち見て」
「カスパルの食べっぷりを見てるの、楽しいなと思って」
「そんなにおもしろいもんでもねえだろ?」
カスパルは眉を顰めてむくれるが、本気で怒っているわけでないことはリンハルトにもわかった。
「それに、君はいつもろくに噛まないで食べるからね。見てない間に喉に詰まらせたら大変だ」
図星を指されたカスパルはぐっと言葉を詰まらせる。それでも菓子を食べる手は止めないのだから、本当に気に入ったのだなとリンハルトは胸を撫で下ろした。
「……こうやって君とゆっくり過ごすのは久しぶりだね。最近は戦いばかりでそれぞれの時間を持てなかったから」
焼き菓子の甘さに目を細めながらリンハルトは呟く。
向かいの席に座ってもぐもぐと菓子を咀嚼していたカスパルは、ごくんと焼き菓子を飲み込んだのちに挑戦的な笑みを浮かべた。
「さてはお前、オレがいなくて寂しかったんだな?」
「まあね」
「……そ、そうかよ」
リンハルトがあっさり肯定するとカスパルの方が照れて顔を背ける。
各地を転戦しているカスパルはリンハルトとすれ違いになることも多く、顔を合わすことすらままならない日が続いていた。やっと帰還した帝都での貴重な時間を、カスパルはリンハルトのために割いてくれているのだ。
「君と一緒にいられるのは嬉しいな。……昔はそれが当たり前すぎて、そんなこと考えもしなかったけど」
カスパルと過ごす時間はいつも賑やかで、騒がしいけれど決して不快ではない。カスパルの隣はリンハルトにとって心地よく、心が安らぐ場所といえた。
「ずっと戦い詰めでゆっくり休む暇もなかったからね。カスパルもたまには息抜きしないと」
「言われなくてもそのつもりだぜ。まあ、休暇中も鍛錬はするけどな」
カスパルは笑って拳と拳を胸の前で打ち鳴らす。
「カスパルらしいね。でも、休むのも仕事の内だからほどほどにね」
「わかってるよ」
好きな味と、好きな人と一緒に過ごす時間。そのふたつが揃ったいま、これ以上の至福はないように思えた。
カスパルと過ごす時間がリンハルトにとってかけがえのないものになったのはいつからだろう。
カスパルはリンハルトのほかにも友人が沢山いるのだから、わざわざ自分などと一緒に過ごさなくてもいいのに――最初はそう思っていたのだが。
リンハルトを見かけるとカスパルは決まって駆け寄ってくるものだから、いつの間にか自分もそれを心待ちにするようになっていた。
カスパルと過ごす時間は居心地がいい。彼の笑顔を見ているだけで、リンハルトは胸が温かくなる。
戦いに生きるカスパルにとって、リンハルトと過ごす時間が息抜きになるのかはわからないが――それでも、カスパルはこうしてリンハルトのもとへ帰ってきてくれる。
それはリンハルトにとって、とても幸せなことに思えたのだ。
幸せな気持ちに浸りながら焼き菓子を口に運んでいると、いつの間にか皿の上は空っぽになっていた。二人は会計を済ませて礼を告げてから焼き菓子店を後にする。
特に用事はないのだが、このまま帰るのも味気なくてリンハルトはカスパルに手を差し出す。カスパルは首を傾げながらもそれに応じ、リンハルトの手を握り返した。
悪くない雰囲気だ、とリンハルトは思う。
カスパルとはこうして手を繋いだり、ときおり口づけたりもする間柄だったが、お互い多忙なのもありなかなかそれ以上の関係に踏み込むきっかけがなかった。
ただ、今日は戦い続きの日々から解放されてカスパルも気を抜いているだろうし、少しくらい甘えてもいいのではないだろうか。
そう考えたリンハルトは足を止めてカスパルのほうに振り返った。
「ねえ、カスパル」
「なんだ?」
リンハルトはつられて立ち止まったカスパルに微笑みかける。そして繋いでいた手を強く握り直し、人気のない路地へ引っ張り込んだ。
「お、おい、リンハルト」
カスパルの戸惑った声を無視してリンハルトはカスパルの唇に自分の唇を重ねる。
「ん……!」
突然の口づけにカスパルは目を見開かせたが、やがてリンハルトの腰に腕を回して強く抱き締めてきた。リンハルトもそれに応えるように、カスパルの首に腕を回す。
啄むような口づけから始まったそれは、徐々に互いの舌を絡め合う激しい口づけへ変わっていく。息継ぎすら惜しむように二人は互いの唇を貪り合い、体を密着させて体温を分け合った。
「リンハルト……」
カスパルは名残惜しそうに唇を離したのちに、熱っぽい眼差しでリンハルトを見つめる。いつもより低い幼なじみの声にリンハルトの奥がずくりと疼き、体の深い部分がじわじわと熱を帯びてゆく。
「……やっぱり、ゆっくり休むなんて性に合わねえや」
カスパルはそう自嘲気味に呟き、リンハルトを壁に押しつけて再び唇を重ねてきた。口づけを交わしながらもカスパルの手はリンハルトの体のあちこちを這い回り、衣服を捲りあげて素肌の上を滑り始める。
「んん……っ」
カスパルの指が胸の突起に触れた途端、痺れるような快感がリンハルトの背筋を駆け抜けた。指先で摘むようにそこ弄ばれると、リンハルトの口からは堪えきれなかった声が溢れ出す。
「やっ……そこばっかり、やめ……」
「気持ちいいんだろ?」
カスパルは意地悪く笑いながら、突起を指先で弾いたり軽く摘まんだりしてリンハルトを攻め立てる。激しく執拗な刺激にリンハルトは身悶え、体が次第に熱を帯びていくのを感じた。
「あ……っ!」
カスパルの指先が胸から離れたかと思うと、今度は膝で股の間をぐりぐりと押してくる。そこは既に熱を持ち始めており、衣服越しでもわかるほど張り詰めていた。
「こっちも触って欲しいんじゃねえか?」
耳元で囁かれる甘い声を拒むことなどできなかった。
甘美な誘いに抗えぬまま頷くと、カスパルはリンハルトの革帯に手をかける。そして下衣ごと一気に引き下ろし、昂ったそれをリンハルトのそこに――
「あ……♡ 駄目だよカスパル、こんなところで……♡」
「なにが駄目なんだ?」
ひとりごとを零すリンハルトにカスパルが首をかしげる。
我に返ったリンハルトは繋いだままのカスパルと自分の手を交互に見た。カスパルとの情事を脳内で空想していたのだが――どうやら無意識のうちに声が出てしまっていたらしい。
「ああ、なんでもないよ」
「なんだよ。気になるじゃねえか」
曖昧にごまかすリンハルトの態度にカスパルは不満げに口を尖らせる。
「いや、久しぶりの逢い引きなのに、もう終わりだなんて寂しいなって思ってね」
ごまかすために口にしたその言葉は、リンハルトの素直な気持ちだった。
ずっと戦い詰めだったこともあり、カスパルと過ごす時間は貴重なひとときだ。もう少し一緒にいたいと願うのはわがままではないと思いたい。
「確かに、それもそうだな。オレもまだ物足りねえと思ってたところだ」
カスパルも同じことを思っていたのだろう。リンハルトの言葉にふっと微笑むと、繋いだ手をきゅっと握り締めてきた。
「そうだ、オレの部屋に来ねえか?」
「えっ?」
思いもよらない誘いにリンハルトは目を丸くする。
「いい酒を貰ったんだよな。せっかくだから、お前と一緒に飲みてえと思ってさ」
カスパルはにっと笑い、リンハルトの手を引いたまま歩き出す。
カスパルと一緒にいられる時間が増えるのは嬉しいし、いい酒も付いているとなれば断る理由もない。
リンハルトは「いいね」と返して頷き、カスパルに導かれるまま彼の自室へと向かうことにした。
私室にリンハルトを招いたカスパルは、卓上に置かれた二つの盃に葡萄酒を注いでいく。透き通った液体からは芳醇な香りが立ち上り、それだけで酔いしれてしまいそうになるほどだった。
リンハルトはカスパルと向かい合う形で席に着き、盃を手に取って乾杯する。まずは香りと味を確かめるように一口飲み下すと、濃厚な甘みが口内に広がって胃にじんわりと染み渡った。
「うん、おいしいね」
「だろ? オレにはちょっと甘すぎるけど、お前にはちょうどいいんじゃねえか」
カスパルはつまみの干し肉を口に含みながら葡萄酒を呷る。
糖度の高い葡萄酒はリンハルトにとってはなかなかの品だった。それもカスパルには甘すぎるらしく、ちびちびと舐めるように飲んでいる。
そんな様子が微笑ましくて口元を緩めていると、ふと葡萄酒の水面が微かに揺れた気がした。
「……?」
顔を上げた瞬間、リンハルトの心臓がどくんと跳ねる。それから鼓動が次第に早くなっていき、全身の血が沸き立つような感覚に襲われた。
「カスパル、これって……」
下腹部に熱が集まるのを感じ、リンハルトは戸惑いながらカスパルの様子を窺う。
「おっ、あの話ほんとだったみたいだな」
カスパルは平然とした様子で干し肉を齧っている。その様子がますますリンハルトを困惑させた。
「どういうこと……?」
「この酒、精力剤として使われることもあるんだってよ。オレも最初は半信半疑だったけど、けっこう効くもんだな」
「えっ?」
カスパルの言葉の意味を理解するまでに時間がかかった。
精力剤としての効果を持つ酒をリンハルトに飲ませたということはつまり――そういうことなのだろうか?
「お前とゆっくり過ごしたくてさ。あとはまあ、ちょっとだけ悪戯心が芽生えたっつうか……」
カスパルは力の抜けたリンハルトの体をひょいと抱え上げて寝台の上に横たえさせる。そして、リンハルトの腰帯に手をかけると手早く脱がせてしまった。
「ちょっと待って、まだ心の準備が……!」
「そんなこと言って、お前も期待してたんだろ?」
カスパルはリンハルトに覆い被さり、耳朶を前歯で甘噛みする。それだけで体の奥底から痺れるような快感が走り抜け、リンハルトは体をびくびくと震わせた。
「ん……っ」
耳への愛撫を繰り返しながら、カスパルの手はリンハルトの衣服を剥がして露になった体をまさぐっていく。期待に膨らんだ胸の突起を摘まれると、リンハルトの口からは思わず甘い吐息が漏れた。
「あ……カスパルっ……!」
リンハルトは抗議するようにカスパルの二の腕を掴むが、カスパルは手を止めることなくリンハルトを責め立て続ける。
「可愛い声出すじゃねえか」
カスパルに耳元で囁かれるだけで、リンハルトは頭の芯が蕩けそうになってしまう。
もっと触ってほしい。もっと気持ちよくなりたい。そんな欲求が心の奥底から湧き上がり、リンハルトは強請るようにカスパルの背中に腕を回した。
「カスパル……」
リンハルトは潤んだ瞳でカスパルに微笑みかける。
そんなリンハルトの気持ちに応えるように、カスパルはリンハルトの脚を開かせてその間に自身の体を割り込ませた。
「……なーんてことになるわけがないよねえ、カスパルだもん」
リンハルトは深いため息をつきながら、机に上体を預けて寝息を立てるカスパルの頬を軽くつついた。
もともと酒に強くないカスパルは少量の葡萄酒で酔い潰れてしまい、今やすっかりと夢の中だ。
自室に招かれるということはもしや……という、リンハルトの淡い期待はあっさりと裏切られてしまったというわけである。
「まあ、カスパルがそんな手段を使うわけないよね」
リンハルトは苦笑を浮かべ、カスパルの頬を摘みながら独りごちた。
カスパルはいつだって直球勝負で、卑怯な手を使うような人間ではない。それは誰よりわかっているはずなのに、心のどこかで期待を抱いていた自分にリンハルトは苦笑した。
「ん……」
カスパルの瞼が微かに動いたため、リンハルトは驚いて指を引っ込める。しかし、すぐにまた規則正しい寝息が聞こえてきた。
「そろそろ起きなよ。こんなところで寝てたら風邪を引くよ」
リンハルトが軽く肩を揺さぶると、カスパルは眉を寄せて不機嫌そうに唸る。
気持ちよさそうに寝息を立てるカスパルを起こすのは忍びなかったが、だからといってここで寝ていては体を痛めてしまうだろう。
「ん……あれ、リンハルト……?」
やがてうっすらと瞼が開かれ、ぼんやりとした瞳がリンハルトを捉えた。
まだ寝惚けているのだろう、カスパルはどこか舌足らずな声で名前を呼んでくる。そんな彼のあどけなさが愛おしくなり、リンハルトは知らず笑みを零してしていた。
「ほら、寝るならちゃんと寝台で寝なよ」
「ん……ああ……」
カスパルは返事とも呻き声ともつかない声を上げると、ゆっくりと体を起こしてあくびをする。くあ、と大きく口を開けて犬歯を剥き出しにする姿が可愛らしくて、リンハルトの口元がますます緩んでゆく。
「……まあ、君はこういうところがいいんだもんねえ」
邪気のないカスパルの言動はいつだってリンハルトの心を温かくしてくれる。こんな無防備な姿を見せてくれるのが自分だけであるという事実も、リンハルトにとっては大切な宝物だった。
「んあ? なんか言ったか?」
寝ぼけまなこのカスパルがぼんやりとした顔のままリンハルトに問いかけてくる。
「なんでもないよ」
リンハルトは微笑みを返すと、カスパルの手を引いて寝台まで導いた。そして横になったカスパルに毛布をかけ、自分も隣に横になってそっと抱き締める。
酒が回ったカスパルの体は普段にもまして熱く、リンハルトはこのまま温もりを分かち合いたい衝動に駆られた。
だが、そんなリンハルトの気持ちなど知らないカスパルは、瞼を閉じるとあっという間に寝息を立て始める。
「ふふ、仕方ないなあ」
リンハルトは目の前で眠る幼なじみの頭を慰撫するようにそっと撫でた。
期待していたような激しい夜にならなかったのは残念ではあるが、こうして朝まで彼の温もりに包まれているのも悪くない。
そう結論付けたリンハルトは瞼を閉じ、愛しい人の鼓動に耳を傾けながら微睡みの中へと落ちていった。
まどろみの中で
フォドラ統一戦争の終焉を迎えてから既に数年の時が流れていたが、カスパルは未だあの頃と変わらない逞しい肉体を維持していた。
盛り上がった胸筋や背筋は彼が斧を振り下ろすたびに隆起し、汗の雫を宙に散らす。体の線に沿うように造られた肌着は汗で皮膚に張り付き、その肉体美を更に際立たせているようだ。
宿屋の窓からその光景を眺めていたリンハルトは思わず見惚れ、感嘆の声を漏らしていた。
リンハルトのほうと言えば案の定と言うべきか、戦の最中にいくらかついた筋肉はすっかりと落ちてしまっている。とはいえ旅を続けているおかげで足腰はいくぶんか鍛えられており、余分な贅肉がつくこともなく適度な引き締まりを維持していた。
リンハルトは戦も喧嘩も嫌いではあるものの、戦うカスパルの姿は魅力的だと思っている。斧を振り回しながら縦横無尽に戦場を駆ける姿は溌剌とした生命力に溢れていて、そんな姿に堪らなく惹かれてしまうのだ。
鍛錬を終えたカスパルは心地よい疲労感と共に斧を下ろし、額に浮かんだ汗を布で拭う。それから桶に汲んでいた水で体の汚れを流すと、リンハルトのいる部屋へと戻ってきた。
まだ乾ききってない髪を揺らしながら寝台に腰をかけるカスパルの姿には、彼らしからぬ艶めかしい雰囲気が纏わりついている。鍛えられた肉体に張りつく薄手の肌着は窮屈そうに胸筋の形を浮かび上がらせ、小さな頂が薄らと生地を押し上げていた。
そんな恋人の姿を眺めているとリンハルトは昂りを抑えられず、カスパルの胸にそっと手を伸ばす。膨らみを包み込むように触れると筋肉がぴくんと震え、カスパルは詰まるような吐息を漏らした。
「んっ……リンハルト?」
「カスパル……してもいいかな?」
リンハルトは薄く微笑んでカスパルの上体を倒し、その胸板に顔を埋める。隆起した筋肉に舌を這わせながら肌着をずり上げると、薄紅色に色付いた頂が顔を出した。
「待てって……オレ、まだ汗臭いだろ?」
「うん。君の匂いがするよ」
唐突な誘いに驚いたカスパルは顔を赤らめながら問いかけるも、リンハルトは構わずその先端を口に含む。そのまま舌先で飴玉を転がすように刺激してやれば、カスパルは薄く開いた唇から甘い吐息を漏らした。
「ん、ふぅ……っ、し、仕方ねえな……」
カスパルは戸惑いながらもリンハルトの頬に手を回し、零れ出る吐息を誤魔化すように唇を合わせる。熱を持った舌が絡み合う感触にリンハルトはうっとりと酔いしれ、カスパルの唾液を啜りながら腰帯を解いていく。
色事の駆け引きが不慣れだったカスパルも、交合を重ねるうちにリンハルトの意図を汲んでくれるようになっていた。その変化にリンハルトは密かに喜びを感じながら、カスパルの股座にそっと手を伸ばす。
「ふふ、熱くなってるね」
「お前が……変なふうに触るからだろ……」
下着越しに中心を撫でるとカスパルは恥ずかしそうに瞼を伏せる。衣服ごと握り込めばそこは少し膨らんでおり、布越しに伝わってくる熱にリンハルトは期待で胸を高鳴らせた。
「ね……触ってほしい? それとも舐めてほしい? カスパルの好きなようにしてあげるよ」
「うっ……」
リンハルトは熱の篭った視線をカスパルに送りながらゆっくりと手を動かしてゆく。布越しに性器の輪郭をなぞるとカスパルは悩ましげな吐息を零し、下着ごと握り込んで軽く扱けば呻くような声を漏らした。
「っ……あ、ん……っ」
「……ね、どっち?」
カスパルは背筋を駆け巡る快楽に身悶え、熱を孕んだ呼吸を繰り返している。その姿を眺めながらリンハルトは手の動きを速め、答えを促すように問いかけた。
「ん……なの、わかってるくせに……」
「カスパルの口から聞きたいんだよ」
カスパルは顔を真っ赤に染め上げながら口を噤み、所在なさげに視線を彷徨わせている。
リンハルトは手の中で硬さを増してゆく性器に微笑みつつ、先走りに濡れた先端を親指で優しく愛撫した。その刺激にカスパルはびくりと腰を跳ねさせ、切なげな吐息を漏らしながらリンハルトの手を軽く掴む。
「あ……っ、ん……っ!」
「ほら……早くしないと下着の中に出ちゃうよ?」
「ん、く……ぅ……」
リンハルトが意地悪く囁くと、カスパルは観念したように瞼を下ろした。
「その……舐めて……ほしい……」
「うん……ふふ、たくさんしてあげるね」
蚊の鳴くような声で紡がれた言葉にリンハルトは笑みを深め、カスパルの下着に手をかけてずり下ろす。するとすっかりと硬くなった陰茎が勢いよく顔を凭げ、リンハルトの鼻先を掠めて飛び出した。
「ふふっ、元気いっぱいだね」
「う……」
カスパルは恥ずかしそうに目を逸らすが、彼の性器はどくどくと脈打っており興奮を隠し切れていなかった。
リンハルトは慈しむように先端へと口付けし、舌先で蜜を舐め取りながら小刻みに動かす。舌先で筋をなぞり、亀頭のくびれを丹念に愛撫すると、カスパルは堪らないといった様子で腰を浮かせた。
「……っあ! あ……っ!」
「ん……む……っ」
カスパルは腰をがくがくと震わせながら熱い吐息を漏らし、内股をきゅっと閉じようとする。リンハルトはその足を優しく撫でながら先端を口に含み、咥内に溜まった唾液を絡ませるように舌を這わせた。
「んっ! あ……っ! も、もう……っ」
「ん……出そう? いいよ、出して」
リンハルトは切羽詰まった様子のカスパルに優しく声をかけたのちに、舌先で鈴口を抉って射精を促す。その刺激にカスパルはびくりと上体を仰け反らせ、限界を迎えた性器から白濁を迸らせた。
「っあ! あ……うぁ……っ!」
「んっ……」
リンハルトはうっとりと酔いしれながら喉仏を上下させ、鈴口にこびりついた残滓も丁寧に舐め取ってゆく。その刺激によってカスパルの性器は再び硬さを取り戻し、物足りなさを訴えるように震えていた。
「ん……ふふ、まだ元気みたいだね」
リンハルトがからかうように声をかけると、カスパルは耳まで赤く染めて拗ねた子供のように眉を顰める。
「……っ、誰のせいだよ」
「僕のせいだよね。知ってるよ」
拗ねた様子の恋人を前にリンハルトはくすくすと笑い、自らの服へと手かけて帯を解いてゆく。
「……ね、僕も気持ちよくしてほしいな」
「ん……」
脱ぎ捨てた衣服を寝台の脇に放りながらねだると、カスパルの手がリンハルトの双丘へと伸びてきた。香油を手渡すとカスパルはそれを受け取り、自らの手に垂らしたのちにリンハルトの後孔へと塗り込めてゆく。
「あ……っ」
カスパルの無骨な手に双丘を優しく揉みしだかれ、リンハルトは背筋を這い上ってくる快楽に酔い痴れる。やがて後孔へと到達した指先は窄まりを軽く撫で、そこの感触を確かめるように入り口を擽ってきた。
「っふ……んぅ……っ」
「すげぇ、な……ひくひくしてる……」
指先に吸い付いてくる媚肉の感触にカスパルは感心したような声を上げ、何度も指先を動かして肉の柔らかさを確かめている。リンハルトはもどかしさに身を焦がしながらもカスパルの腰を撫で、続きを促すように腰を揺らめかせた。
「うん……だから、もっと奥まで触っていいよ」
「あ、あぁ……」
カスパルは小さく頷き、リンハルトの双丘を割り開いて窄まりに指先を添えた。そしてゆっくりと指を埋め込み、熱い粘膜の感触を確かめるように抜き差しを繰り返す。
「ん……っ、はぁ……っ」
「痛くないか?」
カスパルは不安げな様子でリンハルトの顔を覗き込む。そんな恋人の言葉にリンハルトは穏やかな笑みを浮かべ、こくりと首を縦に動かした。
「うん……平気だよ」
「……そうか」
カスパルは小さく安堵の息を漏らし、埋め込んだ指の動きを速めてゆく。その動きに呼応するように肉壁は収縮を繰り返し、もっと強い刺激をねだるようにきゅんきゅんと蠢いた。
「ん……っ、はぁ……あ……」
抱き合うような体勢のままぐちぐちと後孔を解され、リンハルトは甘い声を上げ続ける。カスパルはリンハルトの肩口に顔を埋め、ふうふうと熱い吐息を漏らしていた。
「……まだ、面と向かってするのは恥ずかしい?」
リンハルトが耳元で問いかけると、カスパルは一瞬だけ手の動きを止める。
カスパルはお互いの顔が見える状態で前戯をするのを好まないらしく、いつもこうして抱き合うような形を取るのだ。
「その……どういう顔してればいいのかわからなくてよ」
「……僕は君の顔、見たいけどなあ」
カスパルは気恥ずかしそうに視線を彷徨わせながら呟く。その姿が愛おしくて、リンハルトは甘えるように鼻先を摺り寄せる。
「ね、僕の顔見てよ……今どんな顔してるかわかる?」
リンハルトに促されてカスパルが顔を上げ、ふたりの目線が交わった。
リンハルトの頬は色付き、瞳は潤んでおり呼吸も荒くなっている。行為によってもたらされた快楽ですっかり蕩けきった表情を前に、カスパルはごくりと喉を鳴らした。
「なんか……すげぇ楽しそうだな」
「……ふふ、なんだいそれ。まあ間違ってはないかな?」
カスパルの指摘にリンハルトは可笑しそうに笑い、腰を揺らめかせて続きを催促する。カスパルはそれに応えるように肉壁を掻き分け、指を折り曲げて腹側のしこりを擦り上げた。
「ん……っ! あ……そこ……いい……」
「ここか?」
「ん、そこ……もっと強くして……」
リンハルトはより強い愛撫を求めて下肢をカスパルに擦りつける。カスパルはそんなリンハルトの腰を支えながら更に指を増やし、内壁を広げるようにばらばらに動かした。
「あ、あっ! んん……っ」
「気持ちいいか?」
「うん……すごくいい……」
リンハルトはうっとりとした声で問いかけに答える。
厚い皮と肉刺に覆われたカスパルの手はごつごつとしていて硬く、それそのものだけでは決して心地いいとは言えない。だが、その感触に彼らしさを感じられることがリンハルトに至高の快感を齎していた。
「ね……もういいよ」
「ん……わかった」
促されたカスパルは後孔から指を引き抜くと、自身に跨っていたリンハルトの体を寝台に横たえて覆い被さる。そして先走りに濡れた性器の先端をひくつく窄まりへと押し当て、ゆっくりと腰を進めていった。
「ん……っ、はぁ……」
「あ……うぁ……っ」
肉壁を掻き分けながら侵入してくる質量の熱さに、リンハルトは恍惚とした吐息を漏らす。その熱い粘膜の感触にカスパルも堪らず声を漏らし、眉を顰めて快楽に耐えていた。
やがて根元まで埋め込んだところでふたりは動きを止め、熱い視線を交わし合うとどちらからともなく唇を重ね合わせる。
「は、あ……カスパル、早く……」
舌同士を絡み合わせながら互いの体温を確かめているうちに、リンハルトの腰がもどかしげに揺れ始めた。きゅうっと締め付けてくる粘膜の感触にカスパルは熱い吐息を漏らしたあと、それを宥めるようにゆっくりと抽挿を開始する。
「んっ……あ……」
カスパルが腰を動かすたびに内側の壁が収縮を繰り返し、じわじわとリンハルトの熱を高めてゆく。その動きに合わせてリンハルトは腰を揺らめかせ、もっと強い快楽を求めてカスパルに抱き着いた。
「あ、ん……はぁ……」
「っ、リンハルト……」
カスパルは愛おしげに恋人の名を呼び、ぴったりと腰を密着させて最奥まで欲望を突き入れる。その瞬間に電流のような衝撃が背筋を駆け抜け、リンハルトは大きく背中をしならせた。
「あ、ああっ……! はぁ……ん!」
「……っうあ!?」
絶頂に達して激しく締め付けてくる肉壁に抗えず、カスパルもまたリンハルトの体内で精を放つ。その熱の感触すら気持ちよくて、リンハルトは艶やかな吐息を漏らしながらふるりと体を震わせた。
「はぁ……っ」
「リンハルト……」
荒い呼吸を繰り返していると、額に汗を滲ませたカスパルが心配そうに顔を覗き込んでくる。そんな恋人の表情に愛おしさが込み上げてきて、リンハルトは触れるだけの口付けを施したあと頬を摺り寄せた。
「ふふっ……君は心配性だなあ」
リンハルトはくすくすと笑ってカスパルの頬を優しく撫でる。カスパルはリンハルトの手に自身の掌を重ね、滑らかな肌の感触を確かめるように包み込んだ。
「その……無理させたかと思ってよ」
「大丈夫だよ、すごく気持ちよかったから」
リンハルトの言葉にカスパルは安堵したように表情を緩める。それに釣られてリンハルトも穏やかな微笑みを向け、汗ばんだ肌同士を重ね合わせながら甘えるように抱きついた。
「ん……ね、もう一回……」
カスパルは求められるままに唇を重ね、リンハルトの後孔に埋め込んだままの性器をゆっくりと動かし始める。
ぬるま湯につかるような心地よさにリンハルトは熱い吐息を漏らし、快楽を求めてカスパルの腰に脚を絡めた。
可愛い恋人と戯れ合いながら肌を重ね、互いの体温を分け合いつつ快楽に身を委ねる。その幸福感に浸りながら、リンハルトは愛する人との営みに耽溺していった。
鼻にかかった声を漏らしながら、リンハルトはゆっくりと瞼を開く。ぼんやりと霞む視界に天井が映り込み、そこでようやくここが宿屋の一室であったことを思い出す。
どうやら行為の後そのまま眠ってしまったらしく、リンハルトは素肌の上に襯衣をかけられた状態で寝台に身を横たえていた。
「……あ、起きたか?」
リンハルトが身動ぎする音に気づいたカスパルが寝台の傍から声をかけてくる。リンハルトは気怠い身を起こしながら襯衣の袖に腕を通し、カスパルに向かってへらりと笑いかけた。
「うん……おはよう」
リンハルトは寝台に座って状態を起こし、腕を伸ばしてその場で大きく欠伸をする。その動作によって袖がひっぱられ、ようやくリンハルトはこれがカスパルの襯衣であることに気がついた。
「君にしては趣向を凝らしていて素晴らしいけど……僕が着るにはちょっと袖が短いね」
「それはしょうがねえだろ」
カスパルは苦笑を漏しつつ、リンハルトの腰元に手を伸ばして襯衣の裾を捲り上げる。
「お前の服は皺になってたから干しといたんだけどよ……オレの服じゃやっぱ長さが足りねえな」
「幅は余るくらいなんだけどね。君、この体型じゃあ旅先で服を探すの難しくないかい?」
リンハルトはお返しとばかりにカスパルの二の腕を軽く掴んでみせた。
小柄でありながら筋肉質なカスパルは、身長に合わせた服を着ると幅が足りず、幅に合わせた服を着ると丈が余ってしまうようなのだ。
ベルグリーズ邸にいるときはカスパルの体格に寸法を合わせた衣服を職人に繕わせていたのだろうが、旅先ではそれも叶わないだろう。
「そうなんだよなあ……まあ、大きめのを買って袖は捲ればいいだけの話なんだけどよ」
カスパルは捲っていた裾を元に戻すと、そのままリンハルトの体を優しく押し倒す。そして覆い被さるような体勢で唇を重ねたのちに、甘えるように鼻先を擦り合わせてきた。
「……どうしたんだい? まだ足りないのかな?」
「いや……もう充分だ」
くすくすと笑みを浮かべるリンハルトにカスパルは照れた様子で答える。
「その、たまにはオレも二度寝するかなって思ってよ」
「ふふ、そうだね……じゃあ僕もそうしようかな」
「お前は言われなくたってするつもりだったんだろ?」
「まあ、そうなんだけどね」
リンハルトはカスパルの首に腕を回して抱き寄せたあと、再び寝台へと横たわった。
どちらからともなく唇を重ね、触れるだけの口付けを何度か交わしたのち、ふたりは互いに顔を見合わせて笑みを零す。
そうして互いの温もりを分け合いながら、穏やかな眠りへと落ちていったのだった。