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しょうがねえな、という呆れたような声と共にカスパルの手が足腰に回され、リンハルトは衣服越しに逞しい腕の感触と体温を感じた。それとほぼ同時に体が持ち上げられて浮遊感に包まれる。
ああ、また寝てしまったのか――まどろみの中にあったリンハルトはようやっと自身が寝入ってしまったことを理解した。誰かと食堂で話している最中だった気もするが、起こされないということはさして重要な内容ではないのだろう。
意識はあるものの、体はまだ眠っていて自由に動かせない。瞼が異様に重くて、開こうとしても思うように持ち上がらない。ただカスパルの体温と心音だけがひどく近い距離にあって、それはとても心地が良かった。
リンハルトはカスパルに抱きかかえられたままゆっくりと運ばれていく。扉を開ける音、階段を降りる音、体に伝わってくる振動の変化――それらの情報から、カスパルが食堂からリンハルトの私室へと移動していることが理解できた。
やがて扉の錠を解く音が聞こえたかと思うと、リンハルトの体がやわらかな場所に横たえられる。
それが自室の寝台であることは経験則でわかった。リンハルトが外で寝込んでしまい、それをカスパルが運ぶというやりとりは日常茶飯事であるため、カスパルはリンハルトの私室の合鍵を持っているのだ。
そのままでは寝苦しいだろうと考えたのか、カスパルはリンハルトの靴を脱がせて床に落とした。それから後頭部に手を回して頭を軽く上げさせ、髪紐を引いて結っていた髪を解いてゆく。
首筋に感じるカスパルの体温と、幼い子供に触れるときのような優しい手つき。それらに混じってふわりと漂ってきた汗の匂いに、リンハルトは自身の鼓動が高鳴るのを感じた。
カスパルの手はすぐに離れていき、温もりや匂いが遠のいてゆく。それがひどくもったいなく思えて、リンハルトはカスパルの首に腕を回して抱き寄せた。
「……もう帰っちゃうのかい? もう少し、一緒にいてくれてもいいじゃないか」
「わっ……なんだよ、起きてたのか?」
カスパルは驚いたように目を丸くしたが、リンハルトの手を引き剥がしはしなかった。
それをいいことにリンハルトはカスパルの下肢に手を伸ばし、まだやわらかい膨らみを衣服越しに撫で擦る。リンハルトの手が軽く触れただけでカスパルはぴくりと震え、愛撫から逃げるように腰を引いた。
「あっ……待てって、まだ昼間だぜ」
「嫌かい?」
リンハルトが指を動かしながらくすくすと笑えば、カスパルは気まずげに視線を逸らす。その顔がほんのりと紅潮しているのが見て取れて、リンハルトは自身が満たされた気分になるのを感じた。
もっとこの感覚が欲しい。よく知った幼なじみの、まだ知らない面をもっと見たい。
その欲求に突き動かされるようにカスパルの下肢をまさぐると、やがてそれは芯を持ち始めて衣服を押し上げた。素直なその反応が可愛らしく、リンハルトは口元に笑みを浮かべる。
「勃っちゃったね……こんな状態のまま外には行けないよね?」
「そ、それは、お前がっ」
「責任は取るよ。僕に任せてくれていいからさ……」
リンハルトはカスパルを寝台の上に引き寄せ、服に手をかけて性器を露出させた。まだ初々しさを残しつつもしっかりと勃起した性器にリンハルトは目を細め、それを優しく掌で包み込んで緩慢な愛撫を施す。
「……っ、あ……」
やんわりと手を動かして竿を擦ると、カスパルの性器からはすぐに先走りが溢れ出した。それを塗り広げるように亀頭から根元までを掌で扱いてやれば、触れ合った箇所からくちくちと湿った音が立ち始める。
「ふふ、もう濡れてきたね」
「うっ……仕方ねえだろ……」
からかいの言葉にカスパルは少し不機嫌そうに唇を尖らせた。その子供っぽい仕種にも愛おしさを覚え、リンハルトの下肢に集まった熱が背筋を駆け上がってゆく。
早くこれを自分の中に収めたい。熱く滾ったカスパルの剛直で腹の奥まで貫いて、中を埋めつくしてぐちゃぐちゃに掻き混ぜて欲しい。そんな欲求がリンハルトの思考を塗り潰していった。
「んっ……気持ちいいかい? ここも、もう固くなってるね」
リンハルトはカスパルの性器を更に激しく擦り、雁の裏側や先端の窪みを指先でぐりぐりと刺激する。同時に肌着をたくし上げて胸の尖りを指で転がすと、カスパルは寝台に手をついてがくがくと膝を震わせた。
「あ……っ、リンハルト……も、もう……」
「出したい? じゃあ……僕の中で出そうか?」
リンハルトは自身の衣服をくつろげて下穿きを下ろし、露になった脚を開いてカスパルを誘う。
まだ触れられていないリンハルトの窄まりは、挿入への期待からヒクヒクと疼いている。すぐにでも挿入できそうなほどそこが解れているのは、リンハルトがこうなることを期待して自身で弄っていたからにほかならなかった。
「……ほら、おいで?」
リンハルトは恍惚とした表情を浮かべて微笑む。
カスパルはごくりと喉を鳴らして頷き、先走りを塗り込めるようにしながらリンハルトの後孔に屹立を宛がった。熱く滾った亀頭が窄まりを押し広げながら侵入してくる感覚に、リンハルトはほうっと熱い吐息を漏らす。
「……大丈夫か? 動いてもいいか?」
性器を根元まで収めたカスパルは、リンハルトの顔を覗き込んで慰撫するように頬を撫でてきた。ごつごつとしたカスパルの掌の感触が心地よく、リンハルトは甘えるようにその手に頬を擦り寄せる。
「うん……僕も、早く君が欲しいな」
リンハルトは催促するように腰を揺らす。
カスパルはリンハルトの腰を掴んで位置を調整したのにち、ゆっくりとした動作で抽挿を開始した。律動の度にカスパルの先走りが入口で泡を立て、ぐちゅぐちゅと淫猥な水音が室内に響く。
「あ、あぁっ……いいよ、カスパル……」
カスパルの亀頭で内壁を擦られる感覚に、リンハルトの口から上擦った声が押し出された。
カスパルのものは長さこそ平均的だが太さは人一倍あり、リンハルトの窄まりを皺が伸び切るほどに押し広げてくる。それが体内で動く度にリンハルトは強い快感を覚え、無意識のうちに後孔を締め付けてしまっていた。
「リンハルト……リンハルトっ……」
カスパルは切なげに呻きながら何度も抽挿を繰り返す。
単調な動作と共に名を呼ぶことしかできないカスパルの拙さが愛おしく、リンハルトは手を伸ばして硬質な空色の髪をそっと梳いた。額に浮かんだ汗をちゅっと音を立てて吸い上げれば、カスパルは安堵したように目を細める。
律動は徐々に加速し、だんだんと間隔が短くなってゆく。
限界が近いことを感じ取ったリンハルトはカスパルの腰に足を絡ませ、自身の下肢を押し付けて体を密着させる。そのまま搾り取るように内壁を蠢かせると、カスパルは低く呻きながら太腿を震わせた。
「はぁっ……リンハルトっ……」
カスパルの熱い吐息を感じてリンハルトはぶるりと身を震わせる。カスパルは頬を上気させて快感に耐えるように眉根を寄せており、余裕のないその姿にリンハルトの心臓が大きく高鳴った。
可愛い。愛おしい。食べてしまいたい。
そんな衝動に突き動かされ、リンハルトはカスパルの頭を引き寄せて貪るように唇を重ねた。
口唇を軽く食みながら舌を絡ませると、唾液が混ざり合う音が口腔に響いて心地良い。その間も結合部では抽挿が続き、そこから生じる快楽で頭がいっぱいになっていった。
「リンハルトっ、もう……」
限界を訴えるようにカスパルの腰の動きが早まってゆく。肌と肌がぶつかってぱちゅぱちゅと濡れた音を奏で、結合部から飛び散った体液が二人の股間を濡らしていった。
「うんっ……出していいよ、カスパル……あっ、ああっ……!」
一際強く穿たれた瞬間、リンハルトは脳髄が蕩けるような快楽を感じた。その感覚に押し出されるようにして白濁を吐き出すと同時に、体内に熱いものが迸りじんわりとした温もりが広がってゆく。
「はあ……あぁ……」
リンハルトは薄目を開けたまま吐息を漏らしてぐったりと脱力する。そこに同じように脱力したカスパルが倒れ込んできて、リンハルトは受け止めるようにしてその体を優しく抱き締めた。
「ふふ……いっぱい出たね。気持ちよかった?」
汗に濡れた肌から伝わる温もりと鼓動の速さに心地よさを覚えながら、リンハルトはそっとカスパルの頬に触れる。
カスパルは耳までを赤く染めていたが今度は視線を逸らすことなく、「……おう」と小さな声でリンハルトの言葉に応えた。
いつまでも初々しい幼なじみの反応が可愛らしく、リンハルトはカスパルの顔を引き寄せて唇を合わせる。その状態で繋がったままの下肢を軽く揺すると、カスパルは僅かに体を震わせて「んっ」と吐息を零した。
翌朝――いや、夕方くらいのことだ。自室の寝台で目を覚ましたリンハルトは、その出来事が夢であることに気がついて落胆した。
どこまでが現実で、どこからが夢なのか。おそらく、カスパルがリンハルトをここまで運び、髪を解いたあたりまでは現実だろう。
カスパルがそのまま帰ったのであればいいのだが、自身がカスパルの股間を撫でたところまでが現実であったなら、リンハルトは穴に潜りたい気分になってしまう。
カスパルとリンハルトは恋人同士だ。既に何度か体を重ねたことはあるし、関係は良好といって差し支えないだろう。
ただ、カスパルは性欲というものがあまりにも希薄だった。生理的な反応で体が昂ることがあっても鍛錬で発散するのが常になっているらしく、リンハルトに相手を求めてこないのである。
リンハルトが求めればカスパルは拒まないため、リンハルトとの行為が嫌というわけではないのだろう。しかし、カスパルのほうから求められないのはいささか寂しいものではあった。
もしや、と思ってリンハルトは自身の下肢に目をやる。すると、やはりそこは勃起していた。
リンハルトはため息をつきながら衣服を緩める。そして寝台に横たわったまま自身の股間に手を伸ばし、昂ったそれを慰め始めた。
「……っ、ん……カスパル……」
夢でカスパルのものを触ったように、リンハルトは手を動かして自身を昂らせてゆく。しかし、いくら擦っても手淫だけで達することはできなかった。
「はあ……やっぱりだめか……」
原因はわかっていた。リンハルトは自慰の際に後孔を弄る癖がついていたからだ。それはカスパルと同衾する際の準備のつもりだったのだが――次第にそれなしでは物足りない体になってしまっていた。
仕方なくリンハルトは寝台の横に手を伸ばし、抽斗から小さな壺と太い張り型を取り出す。壺の中には甘い香りを放つ香油が入っており、それを少量取り出して指に絡ませた。
「ん……っ」
ぬめりを帯びた指で後ろの窄まりに触れると、そこは待ちかねていたかのようにヒクヒクと蠢いた。その浅ましさに苦笑しつつ、リンハルトは指を中へ押し込んで抜き差しを始める。
「あ……カスパル……」
リンハルトはカスパルのごつごつした手を想像しながら指を動かして内壁を擦ってゆく。これはカスパルを受け入れるための前戯なのだと考えると、リンハルトの体は更に昂ぶりを増していった。
「あぁ……ん……カスパル……もっと、奥……」
リンハルトは切なげに眉を寄せ、腰を揺らめかせながら指を増やして中を押し広げてゆく。
もっと奥まで触れて欲しい。この空洞をカスパルのもので満たして欲しい。あの太いもので奥まで穿って、カスパルの手でこの熱を冷まして欲しい。
リンハルトはもどかしげに腰を揺らしながら吐息を漏らす。しかしいくら中を刺激しても、リンハルトの体が求めるような快感を得ることはできなかった。
「カスパル……早くっ……」
リンハルトは衝動に突き動かされるまま張り型を手にすると、たっぷりと香油を塗ったそれを自身の窄まりに宛がう。そして、そのまま力を込めて先端を体内に押し込んでいった。
「んっ、んんっ……!」
異物が入り込んでくる圧迫感にリンハルトの喉から呻き声が漏れる。香油でぬめりを帯びたそれはリンハルトの体を傷付けることはなく、滑らかに内壁を押し広げて奥へと侵入していった。
「はあっ……あぁ……」
やがて張り型が根元まで入りきると、リンハルトの口から湿った吐息が漏れた。
リンハルトは張り型をわずかに引き抜いて角度を変え、再度奥へと突き入れて内壁を擦り上げる。それを何度も繰り返していると頭が白んでいき、次第に何も考えられなくなっていった。
「あぁっ……カスパル……カスパルっ……すごいっ……」
うわごとのように幼なじみの名を呼びながら、リンハルトは張り型を動かして抽挿を繰り返す。すっかりと馴染んだそれは体内を質量で満たしてくれたが、リンハルトが求めるような体温はそこになかった。
それでもリンハルトはそれをカスパルのものであると信じて内壁にぐりぐりと押し付ける。そうしながら自身の細い手をカスパルの手に見立て、先走りを零し続ける性器を激しく擦り上げた。
「あ……っ、カスパルっ……もう……」
やがて訪れた限界にリンハルトは背筋を戦慄かせた。張り型を強く握り込んで最奥を穿ち、根元から先端にかけて絞るようにして自身の性器を扱き上げる。
「くっ……! あぁっ……!」
激しい快感にリンハルトの体がビクビクと戦慄き、張り型の形に押し広げられた窄まりがきゅうっと締まった。その刺激にリンハルトは絶頂を迎え、自身の掌に白濁した体液を吐き出す。
「はあっ……はあっ……」
リンハルトはしばらく放心しながら肩で息をしていたが、やがてゆっくりと体を起こして張り型を引き抜いた。香油と体液が混ざった液体が中から溢れ出し、その刺激にすらぶるりと体を震わせる。
「ふう……」
呼吸が落ち着き、熱が過ぎ去ったあとでリンハルトは深いため息をついた。張り型であっても確かに快感は得られるが、それでもやはりカスパルとするときの充足感には遠く及ばない。
「どうやったらその気になってくれるかなあ……」
リンハルトは寝台の上で枕を抱きながら思案する。カスパルの性欲を増進させ、行為に積極的になってくれる方法があればいいのだが――
「リンハルト、起きてるか? そろそろ晩飯食いに行かねえか?」
そのとき、部屋の扉を軽く叩く音と同時にカスパルの声が聞こえてきてリンハルトは飛び起きた。抱えていた枕を寝台の上に戻し、乱れた髪を手櫛で梳きながら、脱ぎ捨てた衣服を整えつつ「起きてるよ」と返事をする。
換気をしていないので匂いが少し不安だったが、カスパルをあまり待たせるわけにもいかない。リンハルトは倦怠感に包まれた体を引き摺って扉へと向かい、カスパルを自室へと招き入れた。
「お、起きてたか! って……なんか顔赤くねえか? 熱でもあるんじゃねえの?」
カスパルは心配そうな表情を浮かべてリンハルトの顔を覗き込む。原因が原因なだけにリンハルトは後ろめたさを覚え、そっと視線をカスパルから逸らした。
「んー……そうかな? それより早く食堂に行こうよ。シチューがなくなっちゃうかもしれないよ」
「お、そうだな! 行こうぜ!」
カスパルは露骨なごまかしを疑うこともなく、リンハルトの手を取って歩き出す。その無邪気な横顔に罪悪感を覚えながらも、リンハルトは先ほどの夢に思いを馳せた。
「あのさ、カスパル」
「ん? なんだ?」
食堂へ向かう道すがら、リンハルトは隣を歩く幼なじみに声をかける。
「率直に聞くけど……カスパルは僕としたいって思ったりすることはないの?」
「えっ?」
リンハルトの問いかけにカスパルは大きく目を見開いた。それから言葉の意味を反芻するように何度か瞬きを繰り返す。
「いや……その、なんだ……」
やがてカスパルはもごもごと言い淀みながら視線を彷徨わせ、リンハルトからそっと目を逸らした。その様子にリンハルトは少しだけ胸がざわつくのを感じつつ、平静を装って言葉の続きを待つ。
「そりゃお前……したいに決まってんだろ」
「……そうなんだ?」
意外な返答にリンハルトは目を丸くする。
カスパルは性欲とは縁遠い性質なのだろうと思っていたため、「したい」という欲求があることが当然であるかのようなその言葉は、リンハルトの予想していなかったものだった。
「でも、お前はあんまりしたくないんだろ?」
「えっ?」
カスパルの口から出た言葉にリンハルトは首を傾げる。
カスパルは困ったように眉尻を下げて後頭部をガシガシと掻いた。
「いや……だって前に言ってたじゃねえかよ」
「前……?」
リンハルトはますます首を傾げる。
以前、自分は何を口にしただろうか。
少し考えてみると思い当たる節があった。
恋人同士という関係になる以前に、二人で酒を酌み交わしたときのことだ。リンハルトは自分の交友関係をあまり他者に話さないほうだが、その日は酒と、相手がカスパルであるという気兼ねのなさが相俟ってつい口が滑ってしまったのだろう。
当時交際していた相手――それは男性だったと思う――が、やたらと求めてきてしつこいだの、研究の邪魔になるから節度を守ってくれだの、そんな不満を口にした記憶がある。相手のことは好意的に思っていたものの、その辺の相性の悪さはどうにもならなかったのだ。
「ああ……そういえばそんな話もしたっけ」
その事を思い出してリンハルトは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
あのときはまさかカスパルとこのような関係になるとは予想していなかったし、酒の席の戯言だと流してくれているだろうとばかり思っていた。だが、どうやらカスパルはしっかりと記憶していたらしい。
「ふふ、覚えていてくれたんだね。それで僕に気を使ってたんだ」
自分の失態を後悔すると同時に、カスパルの気遣いを感じられてリンハルトはなんだか面映ゆい気分になった。この幼なじみは存外に目敏いところがあるのだが、それを恋愛的な部分でも発揮するとは予想外だ。
「そりゃあ……まあ、な」
カスパルは決まりが悪そうに頬を掻く。
話の流れとはいえ、恋人の恋愛遍歴に触れるのはいい気分ではないのかもしれない。カスパルにもそういった感情があるのだと思うと嬉しくて、リンハルトは肉刺だらけの手を取ってぎゅっと握り締めた。
「リンハルト……?」
「いいよ、そういうのは気にしなくて。それよりも……ふふ……」
リンハルトは含み笑いを漏らしながら、カスパルの手を自分の頬に押し当てる。自分より高いカスパルの体温が掌からじわりと伝わってきて、汗で冷えた肌を温める感覚が心地がよかった。
「ねえカスパル、僕はしたいよ。君さえよければ今すぐにでも」
カスパルの手を両手で包み込むようにして握り、顔を覗き込みながら語りかける。
大胆な誘い文句にカスパルは再び口ごもると、戸惑いを露にして視線を左右に彷徨わせた。
「いや、その……シチューはどうするんだよ」
「シチューは明日でも食べられるよ。質を問わないなら僕の部屋にもいくらか食事の蓄えはあるし……ね?」
カスパルの下手な照れ隠しにリンハルトはくすくすと笑う。
シチューを食べ損ねるのは確かに残念ではあるが、幸いにもリンハルトとカスパルは明日の食事の保証がされている立場だ。一食抜いた程度で餓死するわけではない。それよりも、今はカスパルのことを求めていたかった。
「ねえ……駄目かい?」
リンハルトは少し身を眺めてカスパルの唇に口づけをする。そのまま唇を舐め上げて軽く吸うと、カスパルは観念したように「わかったよ」と頷いた。
「あんま期待すんなよ。オレ、こういうの慣れてねえし……」
「わかってるよ。だから二人でいろいろやって慣れていこうね?」
これから待ち受けている行為への期待感に胸が躍るのを感じつつ、リンハルトは踵を返してカスパルを自室へと導く。
けっきょくはリンハルトが押し切る形になってしまったが、カスパルの真意を聞くことができたのは収穫だった。そのことが何よりも嬉しくて、リンハルトはカスパルの頬に唇を寄せて微笑んだ。
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リンハルトは寝台に腰掛けるカスパルの膝に乗り上げてそっと唇を重ねる。啄むような口付けから始まったそれは徐々に深くなっていき、やがて舌を絡め合う濃密なものへと変化していった。
「ん……ふ……」
カスパルの厚い舌が口内をまさぐり、唾液が混ざり合ってくちゅくちゅと音を立てる。互いの粘膜を擦り合わせて得られる快感は心地よく、リンハルトはカスパルの首へと腕を回してより体を密着させた。
息継ぎのために唇を離すと、二人の間に銀糸が伝う。それがぷつりと切れてしまう前に再び唇を重ねれば、今度はカスパルの手がリンハルトの体を這い回り始めた。
「あっ……はぁっ…」
カスパルの手はリンハルトの体の輪郭を確かめるように腰や太腿を撫で回していく。その手に性的な作為は感じられず、ただ純粋にリンハルトの体に触れたいという欲求だけが伝わってきた。
「ねえ……脱がせてくれないかな?」
リンハルトは自分の衣服の袷に手をかけて次の行為を催促する。
カスパルは「あ、ああ」と慌てたように返事をしたあと、リンハルトの着ていた上着を肩から滑り落とすようにして脱がせた。
それから襯衣の釦を外そうとするものの、他人の着ている衣服の釦を外すという行為は存外に難しく、カスパルは悪戦苦闘しながら小さなそれをひとつひとつ外してゆく。
「ふふ、焦らなくていいよ」
リンハルトはカスパルの手の上に自分の手を重ね、緊張に力んだそれを宥めるように撫でてやった。
最後のひとつとなった釦を外し終わると、リンハルトの白い肌が露になる。その白い胸元に咲く薄桃色の突起を目にして、カスパルは思わずごくりと喉を鳴らした。
「あんまり見られると恥ずかしいな」
「あ……わ、悪い……」
リンハルトの言葉に我に返ったカスパルは慌てて目を逸らす。しかし、視線はチラチラとそちらを向いていて、興味を隠しきれていない様子がなんとも可愛らしかった。
「触ってもいいんだよ?」
リンハルトはカスパルの手を取って自分の胸へと導く。
カスパルはおずおずと手を動かし、リンハルトの薄い胸を掌で撫で回す。胼胝に覆われた掌が肌を擦る感覚が心地よく、リンハルトの背中にぞくぞくとした快感が駆け上がった。
「あっ……」
カスパルの指先が膨らんだ突起に触れた瞬間、硬い手の感触にリンハルトの肩がぴくりと跳ねる。だが、そのまま優しく摘まんでくりくりと弄られるとそれはすぐ快感へと変わっていった。
「んっ……ぁ……」
ぷっくりと勃ち上がったそれを指の腹で押し潰されると、甘い疼きが腰の奥へと溜まっていく。加減の程度がわからない故に慎重になりすぎているのか、カスパルの愛撫はひどく緩慢だった。
「もう少し強くしてくれても大丈夫だよ? ほら、こんなふうに……」
リンハルトは薄い肌着の上からカスパルの胸を撫で、突起を探り当てて指の腹でぐりっと押し潰す。すると、カスパルは驚いたように「うおっ!?」と色気のない声を上げた。その反応もカスパルらしく思えて、リンハルトはくすくすと笑みを零す。
「ね? 優しくされても気持ちいいけど……強くされたほうが僕は好きかな」
「そ、そういうもんなのか……」
リンハルトの愛撫を真似るようにカスパルも指を動かすが、やはり加減がわからないらしく恐る恐るといった様子だ。それでも次第に慣れてきたようで、そのうち突起を押し潰したあとに軽く爪を立てて引っ掻くような動きを加えてきた。
「は……んんっ……」
少し痛いくらいの刺激だが、それが逆に心地がいい。リンハルトは与えられる快感を享受するように、カスパルの下肢に自分の下肢を擦り付けた。
「ほら……こうするともっと気持ちいいでしょ?」
「お、おう……」
薄い布地越しに密着した肌と肌が熱を伝え合う。胸への愛撫によって高められた性感に自然と腰が揺れてしまい、布越しでもわかるほど張り詰めた互いの昂りが擦れてたまらない快感をもたらした。
「あ……んっ……ふふ……」
リンハルトはもどかしい刺激に笑みを零す。
妄想の中のカスパルは激しくリンハルトを求めてくれたが、現実のカスパルは経験の浅さから故かひどく奥手だった。それもまた愛おしくて、リンハルトはカスパルの首に腕を回してぎゅっと抱き着く。
「ねえ……下も触って?」
「ん……」
耳元に唇を寄せて囁くと、カスパルの手がリンハルトの下肢へと伸ばされる。そしてそのまま下着の中へと侵入し、勃ち上がった性器を握り込まれた。
「あッ……」
待ち望んでいた直接的な刺激にリンハルトの口から上擦った声が漏れる。
カスパルの手は優しく竿を扱くだけで、リンハルトが望むような強い刺激は与えてくれない。それでもカスパルに触れられているという事実だけでひどく興奮してしまい、リンハルトの性器からは先走りの蜜が溢れ出した。
「んッ……ぁ……はぁ……っ……もっと強くしてくれていいんだよ? ほら、自分でするときみたいに触ってごらん?」
「自分でするとき……?」
「そう。いつもしてるみたいに……ね?」
男同士であれば性器の形状は同じなのだから、相手の性感帯も想像はつくだろう――そういう意味での言葉だったのだが、カスパルは困ったように眉根を寄せて「うーん」と唸り声を上げる。
「その……いつも自分でしてねえから、そう言われてもわかんねえんだ」
「えっ?」
今度はリンハルトが驚きの声を上げる番だった。
カスパルが性欲に乏しい性質であることは理解していたが、まさか自慰の経験すらないとは思いもしなかったのだ。
「いや、そういう行為があること自体は知ってるぜ? でも、鍛錬してればむらむらは消えるから、わざわざ自分で処理する必要がねえっつーか……」
「そ、そう……なんだ」
カスパルの性的な欲求に対する淡白さにリンハルトは面食らう。
だが同時に、そんな彼に対して性衝動を教えたのが自分なのだと思うと、仄暗い独占欲のようなものが満たされるのを感じた。そんな自分に戸惑いつつも、カスパルをもっと自分の手で染め上げたいという気持ちが湧いてくる。
「じゃあ、どうすれば気持ちいいのか僕が教えてあげるね。僕がカスパルのを触ってあげるから、カスパルは僕の真似をしてごらん?」
リンハルトはカスパルの下肢に手を伸ばし、下着の中で張り詰めていた性器を露出させる。軽く触れただけでびくりと震えるカスパルの反応に目を細めながら、半勃ちのそれをやんわりと握って上下に扱いた。
「ほら……こうして……」
「っ、あ……」
雁首の裏側を擦りながら竿全体を扱いてやると、カスパルの口から上擦った声が漏れる。次第に先端から先走りの蜜が溢れ出し、それを竿に塗り広げるように扱くたびにくちゃくちゃと水音が響いた。
「濡れてきたね。気持ちいい?」
「ん……いい……」
「ふふ……素直でいい子だね」
カスパルの素直な反応に満足しつつ、リンハルトは更に激しく手を上下させる。
自分の手の中でカスパルの性器が大きく張り詰めていく。その事実に言いようのない喜びを感じ、リンハルトは恍惚とした笑みを浮かべた。
「ほら、カスパルもやってごらん?」
「こ、こうか?」
カスパルは小さく喘ぎながらも、リンハルトの手の動きをなぞるようにして手を動かす。加減がわからないなりに必死に奉仕しようとする姿が愛おしくて、リンハルトはふっと口元を緩ませた。
「んッ……そう……上手だね……」
先走りで濡れた性器とカスパルの無骨な指が擦れ合うたびに、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が鳴り響く。その音によって鼓膜からも性感を煽られ、リンハルトは熱の篭った吐息を漏らした。
「ん……ふぅ……」
性器への刺激に声が上擦り、絶頂が近づくにつれ自然と手の動きが速くなる。
カスパルの性器はすっかりと張り詰め、リンハルトの手の中でどくどくと脈打っていた。性器の下から覗く陰嚢もきゅっと持ち上がり、射精の瞬間が近いことを伝えている。
「つらそうだね……いっぺん出してみようか?」
「うあっ……!」
リンハルトはカスパルを絶頂に導くべく、先端の窪みを親指で抉って鈴口に爪を立てた。その瞬間、カスパルの体がびくりと震え、リンハルトの手の中に熱いものが迸る。
「はぁ……ふふ……いっぱい出たね」
カスパルの精を受け止めたことに充足感を覚えながら、リンハルトは掌に出された精液を舌で舐め取る。青臭く苦いそれは決して美味とは言えなかったが、不思議と不快感は覚えなかった。
「ん……ちょっと苦いね」
「な、なにやってんだよ!?」
リンハルトの行動を目にしたカスパルはぎょっとした声を上げる。しかしリンハルトはさして気にも留めず、手の中に出された精液を指ごと口に含んで舐め取った。
「あ……これは別に真似しなくてもいいからね」
「いや、そういう話じゃなくてよ……」
リンハルトの行動を目の当たりにして動揺しているのか、カスパルは視線を泳がせながら言葉を濁す。そんな様子が可愛らしくて、リンハルトは思わずくすりと笑みを零した。
「ふふ、可愛いね。ねえ……今度は僕も気持ちよくしてくれるかい?」
リンハルトは射精時に離れてしまったカスパルの手に自分の手を重ねる。そのまま屹立した性器に触れさせると、カスパルは顔を真っ赤にしながらごくりと喉を鳴らした。
「ほら……ちゃんと握って」
「あ……ああ」
カスパルの手がおずおずと動き出し、リンハルトの性器を包み込むようにして握り込む。それからリンハルトの動きを真似るようにして、雁の裏側や竿の裏筋を指先で刺激し始めた。
「はぁ……気持ちいいよ……上手だね……」
リンハルトは熱い吐息を漏らしながらうっとりと目を細める。ぎこちないながらも一生懸命に手を動かすカスパルの姿は、リンハルトの胸の奥に温かな感情を生んだ。
「ん……ぁ……あっ……」
カスパルの手の動きが激しくなるにつれ、リンハルトの口からも甘い声が漏れ始める。もっと強い刺激が欲しいと思う一方で、このままずっとこうしていたいという気持ちもあった。
「あっ……ん……カスパル……」
自分の手で乱れるリンハルトの姿に興奮したのか、カスパルの手の動きが徐々に大胆になっていく。裏筋をぐりっと押し潰したかと思うと鈴口を爪先で穿られ、リンハルトの腰がびくりと跳ね上がった。
「あッ……そこっ……もっと強くしていいから……」
「こ、こうか?」
カスパルの手に力が込められたかと思うと、そのまま上下に激しく動かされる。その刺激にリンハルトの口から上擦った声が上がり、先走りの蜜が溢れてカスパルの手を濡らした。
「ん……気持ちいいよ……あっ、あぁっ……!」
カスパルの手の中でリンハルトの性器がどくどくと脈打つ。
リンハルトの限界が近いことを察したのか、カスパルは手の動きを更に加速させ、射精を促すように激しく上下に扱いてきた。次の瞬間には鈴口の少し上あたりを親指でぐりっと押し潰され、リンハルトは体を大きく震わせる。
「くあっ、あぁっ……!」
痛みを伴う強烈な刺激にリンハルトは背をしならせ、びくんと大きく体を痙攣させた。それの同時に先端から白く濁った体液が溢れ出し、カスパルの手を汚してゆく。
「はぁ……ん……」
リンハルトは絶頂の余韻に浸りながら荒い呼吸を繰り返した。呼吸を整えながらカスパルに目を遣ると、先ほど射精したはずの性器が再び立ち上がり始めている。
「ね……続きもするかい? 僕はしたいと思ってるんだけど……」
カスパルがこの行為に興奮しているという事実に喜びを感じつつ、リンハルトはそっと手を伸ばしてカスパルの屹立を優しく撫でた。
「続き……って……」
カスパルはごくりと喉を鳴らし、上擦った声で問いかける。
リンハルトは妖艶な微笑みを浮かべながらゆっくりと下着を取り払い、脚を開いて剥き出しになった秘所を見せつけた。
「うん……ここに君のを挿れてほしいな」
「っ……!」
リンハルトの指先が秘所を割り開くように周囲の肉を押し込むと、物欲しげにひくつく肉襞が露わになる。少し前まで張り型を咥えていたそこは、カスパルの熱を望んでじくじくと疼いていた。
「もっと気持ちよくなりたいんだ……駄目かな?」
リンハルトは期待に満ちた眼差しでカスパルを見つめる。
カスパルは戸惑いを露わにして「えっと……」「その……」と言葉を濁していたが、やがて意を決したのか「わ、わかった!」と答えて頷いた。
「ふふ、嬉しいな。一緒に気持ちよくなろうね」
リンハルトは喜びを抑えきれずに様子で目を細め、カスパルの首に腕を回してぎゅっと抱き着く。そしてそのまま口づけると、カスパルもそれに応えるようにして舌を絡ませてきた。
舌を絡ませ合いながら残っていた衣服を取り払い、生まれたままの姿になったところで一度唇を離す。それからリンハルトはカスパルの体を引き寄せ、自身に覆い被さるような体勢にさせた。
「ここ、触ってみてくれるかい?」
「お、おう」
カスパルの手を取って秘所へと導くと、おずおずといった様子でぬかるみに指先が触れてくる。その刺激にリンハルトが体を震わせれば、カスパルは驚いた様子で手を引っ込めた。
「だ、大丈夫か?」
「ふふっ……カスパルが来る前に一人でしてたから、そんなに慎重にならなくても大丈夫だよ」
リンハルトは心配そうに顔を覗き込んでくるカスパルを宥めるように笑いかける。
普段の豪胆なカスパルとの落差も相俟って今の様子は非常に可愛らしく、リンハルトの胸の内には庇護欲にも似た感情が芽生えていた。
「ほら……指を入れてみてくれるかい?」
「あ、ああ」
カスパルは恐る恐るといった様子で指先を伸ばし、ぬかるみにゆっくりと指先を沈めていく。
カスパルはもともと怪我を予防するために爪を短く切り揃えているため、その爪先が柔らかい内壁を傷つけることはなく潤滑に奥へと入り込んだ。
「ゆっくりでいいから……中を掻き回して……」
「こ……こうか?」
リンハルトはカスパルの首に腕を回してぎゅっと抱き着き、耳元に顔を寄せて囁いた。
カスパルはリンハルトの言葉に従い、慎重に指を奥へと押し進めていく。やがて根元まで入ったところで一度動きを止めると、今度はゆっくりと関節を動かし始めた。
「あッ……!」
内部を擦られる感覚にリンハルトの喉から思わず声が上がる。それは決して痛みによるものではなく快感からくるものだった。その証拠に性器は再び頭をもたげ、先端からは透明な雫が溢れ出している。
リンハルトの体内には自慰のときに使用していた香油がまだ残っており、溢れ出たそれがカスパルの指に撹拌されてぐちゅぐちゅと濡れた音を立てた。
「はっ……あァッ……!」
ゆっくりと内部を探るような動きは次第に大胆なものへと変わっていく。やがてある一点を掠めたときに一際大きな快感が生まれ、たまらずリンハルトの口から上擦った声が漏れた。
「あっ……痛かったか?」
びくんと大きく体をしならせると、カスパルは慌てて手を止めて不安そうな眼差しでリンハルトの顔を覗き込む。痛がっていると勘違いしたのだろう。
リンハルトはそんなカスパルの気遣いに小さく微笑み、彼の頬に手を這わせてそっと引き寄せた。そして、唇が触れるほどの距離まで顔を近づけて吐息混じりの声で囁く。
「ううん……気持ちいいんだ」
「そ、そうか……」
安心したように息をつくカスパルの姿に愛おしさを覚えながら唇を重ねる。そのまま舌を差し入れるとすぐに応えてくれて、二人は互いの舌を絡ませ合った。
「ん……ふっ……」
口づけを交わしながらもカスパルはリンハルトの体内を解していく。口付けていると緊張が和らぐのか、カスパルは先ほどよりも大胆に指を動かしていった。
「ね……指、増やしてみようか?」
後孔をきゅっと締めながらねだるように腰を揺すると、カスパルはこくりと頷いて二本目の指を挿入する。
既に慣らされていたリンハルトの後孔はカスパルの指を簡単に咥え込み、更に奥へと誘うように熱い粘膜で包み込んだ。
「あ……そこっ……んッ……あっ……あぁ……!」
ぐちゅぐちゅという水音と共に内壁が押し拡げられ、リンハルトは思わず身を捩った。
指による直接的な愛撫に加えて、目と鼻の先ではカスパルが熱い息を吐き出している。耳元で感じる息遣いからカスパルの熱が伝播してくるようで、リンハルトはぶるりと背筋を震わせた。
「ねえ、カスパル……僕、もう欲しいな……」
「欲しい……?」
遠回しな要求では伝わらないらしく、カスパルはきょとりと首を傾げる。
「だから……ここに君のが欲しいんだよ」
リンハルトは屹立して先走りを零しているカスパルの性器を撫でたのちに、自身の秘所を弄る手に自分の手を重ねた。そしてひくつく窄まりに導くように腰を動かすと、カスパルはようやく意味を理解したのか顔を真っ赤に染め上げる。
「お……おう」
緊張からなのか興奮からなのか、カスパルはごくりと喉を鳴らして頷いた。そしてリンハルトの後孔からゆっくりと指を引き抜き、脚を大きく開かせてその間に体を割り込ませる。
「これでいいんだよな? 痛かったら言ってくれよ……」
カスパルはリンハルトに声をかけながら、膝裏に手を差し込んで脚を持ち上げた。そのまま腰を引き寄せられたかと思うと、熱い先端がぬかるみに擦り付けられる。
「あッ……」
熱く滾ったものが押し当てられ、リンハルトの口から期待に満ちた甘い声が溢れ出す。
カスパルはそんなリンハルトの反応を伺いながら、慎重に腰を進めて先端を潜り込ませた。
「んんっ、あぁッ……!」
指とは比べものにならない質量が体内に侵入してくる感覚に、リンハルトの体がびくりと震える。待ち望んでいたものをようやく与えられたそこは、歓喜に打ち震えるようにしてカスパルの竿に絡みついた。
「えっ……!? まっ、あっ……!」
張り型によって蕩けていたリンハルトの体内は、あっけないほど簡単にカスパルの亀頭を飲み込んでしまう。敏感な雁首まで一気に粘膜に包まれる感覚は刺激が強すぎたらしく、カスパルは弾けるようにして精液を吐き出した。
体内にじわりとした熱が広がる感覚に、リンハルトも「んっ」と喘ぎ混じりの吐息を零す。
「あっ……す、すまねえ……」
恥ずかしいやら情けないやら気持ちいいやらで半ば混乱しているらしく、カスパルは涙目になりながらリンハルトを覗き込む。
その様子があまりにも可愛らしくて、リンハルトはくすくすと笑いながらカスパルの髪を撫でた。
「ふふ、慣れてないんだね……嬉しいな。君のいろんな初めてを僕が貰えるなんて」
リンハルトは慰撫するように腰に脚を回し、カスパルを引き寄せて自ら繋がりを深くする。
竿が粘膜に包まれる感覚にカスパルは小さく喘ぎ、体内に挿入されたままのそれが硬度を取り戻す。それがまた恥ずかしかったらしく、どうすればいいかわからないと訴えるような視線がリンハルトに向けられた。
「動いてごらん? ゆっくり抜いて、また入れて……そう……上手だよ」
「んっ……はあっ……」
カスパルは言われるままに腰を揺らし、ゆっくりと律動を開始する。最初は軽く腰を揺するだけだったその動きは、カスパル自身の精液の滑りを借りて徐々に深い抽挿へと変わっていった。
「あっ……あッ……あぁッ……!」
次第に動きが大胆になっていき、結合部からぐちゅぐちゅという水音が響き始める。その音に煽られるようにして二人の息遣いは荒くなっていき、リンハルトの口からも甘い吐息が漏れ始めた。
「いいよっ……カスパルっ……もっと奥……あぁッ!」
「リンハルトっ……!」
リンハルトはカスパルの逞しい背に腕を回してしがみつく。背筋で隆起した肌はじっとりと汗ばんでおり、湿った感触と体温がリンハルトの掌に伝わってきた。
「カスパルっ……カスパルっ……!」
リンハルトはたまらずカスパルの首筋を軽く食み、古傷の残るその皮膚に舌を這わせる。途端に汗の匂いと塩辛さが口と鼻腔に広がり、五感から伝わるカスパルの存在感に大きく身震いをした。
それは絶頂だったらしい。
挿入の刺激だけで達した経験は初めてではなかったが、さすがに汗の味(と言うのが適切なのかすらわからない)で達した経験はなかったために、リンハルトは自身の体の反応に戸惑いを隠せなかった。
「くうっ、あっ……リンハルト……!」
達した際に体内をきつく締め付けたらしい。カスパルはリンハルトの背中に腕を回して掻き抱くと、奥深くに挿入したまま熱を吐き出した。
二度の射精によってリンハルトの体内はカスパルの精液に満たされ、結合部からどろどろになった体液が溢れ出す。その感触だけでリンハルトは感じ入ってしまい、カスパルの腰に回した太腿がぶるりと震えた。
しばらく抱き合ったまま荒い息を吐いていた二人は、呼吸が落ち着いてきたところでようやっと体を離した。
カスパルの性器がゆっくりと後孔から抜けていく感覚に、リンハルトはほうっと恍惚とした吐息を吐き出す。張り出した雁首が窄まりにひっかかり、それを抜く際また快感が走った。そのせいで互いに小さく喘いでしまい、二人は顔を見合わせて苦笑する。
「悪い、オレばっか気持ちよくなっちまって……」
カスパルはリンハルトの顔に張り付いた髪を梳きながら、心底申し訳なさそうに眉根を寄せた。
「どうして? 僕もとっても気持ちよかったよ?」
「でも、お前、その……出してないだろ。あんまり気持ちよくなかったんじゃねえのか?」
どうやら、カスパルはリンハルトが射精せずに達したことに気づいていないようだ。それ以前に、射精を伴わない絶頂の存在を知らないのかもしれない。
それを察したリンハルトはくすくすと小さく笑い、自身の髪を梳くカスパルの手をそっと撫でる。
「『気持ちいい』にもいろいろな形があるんだよ。そうだね……一緒に湯浴みしながら説明しようか?」
浴室を視線で示しながら提案すると、なにを想像したのかカスパルは再び頬を赤く染めた。
存外に察しのいい反応に気をよくしながら、リンハルトはカスパルの手を引いて寝台から立ち上がる。
色恋沙汰に不慣れな幼なじみとの情事は前途多難ではあったが、それもまたリンハルトにとっては愛おしい営みだった。