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「さよならを教えて」のシナリオに含まれるいろんな皮肉

  • 執筆者の写真: 怪盗オコジョポリス
    怪盗オコジョポリス
  • 9月6日
  • 読了時間: 6分

更新日:9月11日

露骨なエロ発言はありませんが、アダルトゲームに関する記述を含みます)



相変わらずパワプロ2024-2025をプレイしているわけですが、自分は風薙くんをけっこう気に入っていてパワフェスでもペナントモードでもチームに入れて活躍してもらっています。


そこで風薙くんのキャラをもっと知りたいと思って過去のパワフェスのコンボを観覧していたところ、「2016」での大鐘くんとのコンボが目に入りました。


「2016」における大鐘くん&風薙くんのコンボは、大鐘くんと風薙くんが二人で話していると、風薙くんがモブの女性たちに「かわいい」「かっこいい」とナンパされるというもの。


そこで風薙くんが遠回しに「大鐘くんの顔はいまいちである」と大鐘くんにマウントを取ると、大鐘くんは札束を取り出してこちらも「金持ちであること」で風薙くんにマウントを取ろうとします。


そして、そのやりとりを見たモブ女性たちは一転して大鐘くんもナンパしてきます。それを見ていた矢部くんが「女って怖いね~」的な言葉で締めるというもの。


このコンボ、彼らの性格やモブの女性たちがどうこうよりも「この会話を書いたライターさんがミソジニー思想を隠さないのが気持ち悪い」と感じたのですが、それと同時にレトロゲーム「ライブアライブ」や「バハムートラグーン」のプロデューサーの話を思い出しました。


それらのゲームには「主人公と両想いだったはずのヒロインが別の男に惹かれて主人公から離れていってしまう」という出来事がメインシナリオで描かれます。なぜこんなシナリオにしたのかと言うと、これらのプロデューサーは女性にフラれたために女性に恨みを持っているからだそうです。


(それを隠さないどころかゲームのシナリオに反映させたうえで製作者インタビューで公言しているのがまた気持ち悪く「だからフラれたのでは?」などと思ったわけですが)



そこで更に思い出したのが「さよならを教えて」という男性向けアダルトゲームと、そのシナリオに込められた「主人公のような男性」に対する皮肉でした。

 

「さよならを教えて」に登場する主人公・人見くんは女性に対して激しい性欲を抱いており、作中に登場するヒロインたちは彼の「美少女とエロいことがしたい」という妄想が生み出した幻覚です。


それと同時に人見くんは女性を見下している傾向があり、人見くんの妄想が生み出した女の子たちは「親から虐待されているかわいそうな子」だったり「体がとても小さい子」だったりと、全員がどこかしら「人見くんより劣っている女の子」なのです。


そして、人見くんはこの女の子たちとセックスをするだけでなく過度な暴力も振るいます。


この人見くんの加虐性は、女性を好きなのにその女性から相手にされないことによるミソジニー(俺がモテないのは俺が悪いんじゃなくて俺の価値がわからない女たちが悪い!)と、「自分とは違って優秀な姉を見返してやりたい」というコンプレックスからくるものであることが作中で示唆されています。


そんな人見くんはヒロイン達にも「見栄っ張り」などと指摘をされるのですが、そこで反省するのではなく逆上するのが彼という人物。だからこそ現実世界での居場所を失い、架空の(絶対に抵抗してこない)女性に鬱憤をぶつけることで発散するようになったそうなのです。


……上述したライターさん達もこれなのかなあ? などと考えていました。


この「さよならを教えて」という作品、「二次元の女性を性的に消費すること」を目的としたアダルトゲームという媒体で「空想の女性を性的に消費したり、痛めつけたりすることで充足感を得ている男性(=アダルトゲームのターゲット層)のコンプレックスを指摘する」というのがものすごく皮肉なのですよね。



ここでもうひとつ思ったのが、人見くんの「空想の中で自分より劣っている相手を生み出して充足感を得る」という行動は、多くの「キャラのかわいそうさを好むタイプの人達」にもあてはまっていることではないか? ということです。


(前にも別の記事に書いた記憶がありますが)このタイプの人達はキャラに「かわいそう」「守ってあげたい」「幸せにしてあげたい」などと口にするいっぽうで、キャラが「かわいそうでない状態」になることを拒む傾向があります。


例えばパワプロの進の「かわいそうさ」を好むタイプのファン達は、「パワプロ11」や「2010(2024-2025)」において彼が「レギュラーリーグに進出して世界的に有名な選手になっている」という作中情報はまるきり無視している印象があります。


こういったファン達の中で進はいつまでも「交通事故に遭うかわいそうな高校生」か「劣等感を抱いたまま野球を続けている哀れな弟」なのでしょう。


「さよならを教えて」には「親から虐待を受けている」という設定のヒロインが登場しますが、前述したようにこれも人見くんが「自分より劣る女性」として生み出した空想上の人物です。

 

そんな彼女に対して人見くんは

「僕は少しでも彼女の役に立てるだろうか。

 役に立たない人間である僕が、彼女のためになにかできるのであれば、これほど嬉しいことはない」

という殊勝な気持ちをモノローグで語ります。

 

しかし、次のシーンでは

「だが、悲痛に泣いている少女の背中を見て、僕は喜んでいるのである。

 いや、実のところ、震える薄い肩を見て……僕は勃起していた。

 勃起していた」

となんとも正直に「かわいそうで興奮する」と語っているのです。


この辺はまるきり「かわいそうなキャラ」を「かわいそう♡ 守ってあげる♡」と愛でるタイプの人達と同じであるように感じました(違うのは、人見くんはそれが自分の性的欲求であると自覚している点ではないでしょうか)

 

更に人見くんは、屋上から身投げをした彼女に対して「僕が救う前に自分で終わりにしてしまっては困る」とまで言います。


このゲームにおける「死」は「人見くんの妄想世界からの離脱」を暗喩していると思われますから、屋上から身投げをした彼女は「人見くんの支配下から離れた」つまり「かわいそうな状態ではなくなった」ということになります。しかし、彼女にかわいそうなままであってほしい人見くんはそれを拒むのですね。  

 

そんな人見くんに対してメインヒロインは

「自分に似た(人より劣っている)相手が好きだから……簡単に理解できる、自分の力量で把握できる相手にしか心を開けないから」

と指摘します。


それに対して人見くんが

「そうなんだろうか? 僕はかわいそうな少女たちを救うため日夜……」

と答えると、

「嘘。かわいそうな自分を、でしょ? 自分に似た(空想上の)相手に自分の理想を投影して、理屈だけの(妄想の)世界に逃げ込んで安心してるんです」

と更に指摘されます。

 

この人見くんの状態は「進にかわいそうであってほしいがために、公式から開示されている彼の輝かしい未来をないことにするファン達」に通じるのでは……とも感じました。

 

ただ人見くんはそんな自分に嫌悪感を抱いていて、それでも自分の性格は変えられないために精神を病んでしまった……という設定のキャラですので、自覚的なぶんいいと言えるのかもしれません。

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